このニュースレターでは、Web3に興味のある方に向けて、話題のトピックをやさしく解説していきます。毎週水曜日6:00に配信しておりますので、情報収集にぜひお役立てください。クリプトを楽しみながら一緒に学習していきましょう。
1. Main Topic:🌪 時系列で分かる「犯罪抑止とプライバシーとオープンソース開発者」にまつわる事件の概要
2022年8月10日、オランダ財政情報調査局(FIOD)は、暗号通貨ミキシングプロトコルのTornado Cashへの関与が疑われた開発者を逮捕したことを発表しました。
参考:Arrest of suspected developer of Tornado Cash
Tornado Cashとは、Ethereumの分散型ミキシングサービスであり、入金から出金のプロセスをコントラクトにより匿名化し、ユーザーのトークンを混ぜ合わせることで由来を分かりにくくし、出金者のプライバシーが守るプロトコルです。
逮捕理由は、Tornado Cashを通じて金融犯罪やマネーロンダリングを助長することに関与したことが疑われたため、です。彼は29歳のオランダ・アムステルダムに住む男性で、執筆現在では事情聴取中かと思われます。まだ彼が犯罪に関与していたかどうかは不明です。もしかすると、単にTornado Cashというオープンソースソフトウェアを開発していただけの可能性もあります。
今回このニュースレターで、このニュースを取り上げる目的は2点です。
Tornado Cash関連のできごとを時系列で現状把握したい
今後どのようなことが起こりうるのかを考えたい
この2点です。
今週はその点を読者の皆様に提供できればと思います。なお、情報量が多いためなるべくシンプルに努めます。
それでは、今週もよろしくお願いします!
Tornado Cash関連のできごとを時系列で現状把握
8月8日、米国財務省の海外資産管理局(OFAC)がTornado Cashの米国での同プロトコルの利用を禁止(SDNリストに追加)した。これは同年5月のクリプトミキシングサービスであるBlenderに続く措置で、Tornado Cashは2例目。
SDNリストとは、SDN list (the list of Specially Designated Nationals with whom Americans and American businesses are not allowed to transact)のことで、要するに米国人や米国籍企業が取引を行ってはいけない対象者リストのこと。
OFACの声明では、このサービスが2019年以来、70億ドル相当以上の不正に入手された資金のロンダリングが行われたと主張。
この声明では、北朝鮮ハッキンググループLazarus Groupが Axie Infinity の Ronin Bridge プロトコルから盗んだ4 億 5,500 万ドル相当のマネーロンダリング、6 月にHarmony Bridge から盗まれた資金と、先週Nomad Bridgeから盗まれた資金の受領についても言及。
Dune AnalyticsによればこれまでのTornado Cashの合計残高が76億ドルであるとの数値。70億ドルが不正に入手されたと評価する声明に疑問視する声も。▶︎🔗:https://dune.com/poma/tornado-cash_1
Chainalysisによれば、Tornado Cashの残高内訳は以下の通り。▶︎🔗: OFAC Sanctions Popular Ethereum Mixer Tornado Cash for Laundering Crypto Stolen by North Korea’s Lazarus Group
8月9日、声明の発表を受けコインセンターの@valkenburgh氏は、「これは言論の自由に対する違憲な制限である」という主張を展開。
人や企業に対して権限を行使することがあるOFACが、自律分散型なコントラクト(Code)をリストに加えたことは前例のないことだとしている。
Tornado CashのGitHubページが差し止め。
USDCがトークンの凍結を実施、この影響によりMakerDAOのDAIでデペグが懸念される。DAIの32%が裏付け資産。▶︎🔗: Tornado Cash Sanctions Expose Potential DeFi Achilles’ Heel
8月10日、オランダ当局は、Tornado Cash に関与した疑いのある開発者を逮捕を発表。▶︎🔗:Arrest of suspected developer of Tornado Cash (ニュースレター冒頭のリンクと同様です。)
制裁対象のトルネード・キャッシュから匿名ユーザーが著名人にイーサリアムを送信──規制の混乱が目的か▶︎🔗: Someone Is Trolling Celebs by Sending ETH From Tornado Cash
Tornado Cashの各ホスティングリソースが停止される。
8月11日、dydxはTornado Cashに関連づくいたユーザーのウォレットをブロックする▶︎🔗:dYdX confirms blocking user accounts tied to Tornado Cash
Tornado Cashにデポジットされている金額の79%が出金される▶︎🔗: Tornado Cash hit by 79% decline in deposits as users rush for the exit
MakerDAOの創設者は、DAIが米ドルペッグを放棄することは「ほぼ避けられない」と述べる。DAI ステーブルコインの USDC 裏付けを売却する可能性。▶︎🔗:MakerDAO founder says it's 'almost inevitable' DAI will abandon USD peg
8月12日、Tornado Cash DAOが米国の制裁に異議を申し立てる法的手段について議論を開始。米国の制裁に対するため法務チームを雇うようにDAOに呼びかける。▶︎🔗: Tornado Cash DAO discusses legal avenues to challenge US sanctions
Tornado Cash DAOのトレジャリー管理にかかるマルチシグの数を4/5→4/6にする決議を投票を完了させて可決。▶︎🔗: Tornado Cash DAO votes to take partial control over treasury funds
Tornado CashのDiscordサーバーとガバナンスフォーラムが閉鎖される。誰によって削除されたのかは不明。▶︎🔗: Tornado Cash's Discord server and governance forum shuttered amid arrest
8月13日、レンディングプロトコルAaveでもフロントエンドのブロック。すでにUSDC等も凍結などの対応。著名人のウォレットアドレスに何者かがTornado Cash経由で0.1ETHを送ってきたことで、アドレスがAaveからブロックされる。
8月15日、コインセンターよりTornado Cash事件に対する分析記事が公開。「OFAC は特定の Tornado Cash スマート コントラクト アドレスを SDN リストに追加することで法的権限を超えており、この行動は適正手続きと言論の自由に対する憲法上の権利を侵害する可能性があり、OFAC は問題を軽減するために適切に行動していないと」と主張。現在、法廷でこの訴訟に異議を唱えることを検討している、とのこと。▶︎🔗:Analysis: What is and what is not a sanctionable entity in the Tornado Cash case
上記記事から、Tornado CashとBlenderとの比較。前回SDNリストに入れられたBlenderはこのサービスを運用するのに自然人の管理運営体制下にあり、今回のOFACが規制対象とするのは妥当である。
しかし、Blenderを規制対象とした枠組みをTornado Cashに当てはめることは困難であり、規制対象とは言えない、との主張。
Tornado CashはEthereumというパブリックブロックチェーンにインストールされたアプリケーションであり、自律的に稼働する、無人の機械であり、人が所有するものではない、との趣旨。以降法解釈論を展開し、憲法や法律に反していることを主張。
時系列での情報整理は以上です。最新の情報はTwitterで更新していく予定です。
今後どのようなことが起こりうるか
以下の2点が論点になると思います。
逮捕された開発者がコードを開発していただけなのか、それともマネーロンダリングにTornado Cashを使って関与していたのかどうか
自律分散的な主体のないスマートコントラクトが、OFACの規制対象として妥当なのかどうかの憲法判断、もしくは法令上の解釈はどうなるのか
OSSを開発しただけだが、当局が運営したと判断されるとならば、相当グレー部分が大きく、曖昧なため、プライバシー関連のソフトウェアを開発すること自体に萎縮することになるかと思います。
日本では、かつてP2Pファイルアップロードソフトの「Winny事件」が有名です。当時の事件のようなことだけは繰り返して欲しくないという気持ちが、率直な思いです。
いずれにしても、現在進行している状況ですので情報を引き続き追いたいと思います。よろしければぜひTwitterをフォローしてくだい。最新情報の更新はTwitterで行います。シャドウバンされているみたいですが…。
音声での所感をお話しております。
本日のMain Topicは以上です。
もし、「ここが面白かった」、「参考になった」などの感想がありましたらTwitterでシェアしていただけたら大変ありがたいです。より良いニュースレターにしていく上での参考とさせていただきます。
その他の参考
2. Web3 Topics
今週までのWeb3に関連するトピックをピックアップしていきます。
インプットにお役立てください。
1.Arbitrum To Launch Nitro Upgrade on August 31
ArbitrumのメジャーアップグレードであるArbitrum Nitroのメインネット(Arbitrum One)の移行が8/31に決まりました。
ArbitrumはEthereumのL2で、Nitroでは更なるスケーリングの向上により高速処理とガス代の低減を実現します。なお、既にテストネット(Rinkby・Goerli)への移行は完了しています。
Nitroの特徴
L1に投稿するトランザクションデータをさらに圧縮
ガス計算処理のEVM互換性向上
全L1プリコンパイラのサポートおよび、相互運用性の向上
など、その他のアップグレードが含まれます。
8/31はArbitrumが1周年となるタイミングです。Arbitrum OddeseyというNFTミントイベントはトランザクションが増えすぎてガス代が急騰したため、Nitroの移行まで延期されていますので、順調に行けば9月に再開されるかもしれません。
なお、9月15日頃にはEthereumのThe Mergeの時期とも重なります。一部ではお祭りムードになる可能性もあります。ぼくも出来るだけ楽しみたいと思います!
2.Pudgy Penguins NFT Prices Surge After Creator Unveils IRL Toys
ペギーペンギンがおもちゃのコレクションを作るライセンスをNFT保有者に提供することをアナウンスしました。
NFTのアートをパブリックドメインする傾向はNounsにはじまり、MoonbirdsもCC0へ発展しています。
どのコレクションがおもちゃのライセンスに紐づくのかは今後アナウンスされる予定です。
Moonbirdsが先日、CC0にすることを発表していますが、パブリックドメインに対する抵抗感がなくなり、むしろオープンにすることによってそれを逆手に取るような動きがあるのが見えます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今週もギリギリの編集となり、前日の深夜に執筆作業をしております。
クリプトが冬の時代とはいいつつも、ニュースは止めどなくあり、まとめたい情報を整理するのがやっとですが、ひとまずTornado Cash関連はこれで手が離れてホッとしました。参考になれば幸いです。
ぜひTwitterでシェアしていただけたら嬉しい限りです。
それでは、また。
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