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今週は、2021年9月にSTEPN公式が発表していた「GameFiにおけるトリレンマ(Trilemma)」と、Web3に必要なゲーミフィケーションについて考えていきます。
きっかけは以下のTweetです。ぜひ以下のスレッドも参考にしてみてください。
2022年の冬・春はSTEPNというMove To Earnプロジェクトが日本で人気になりました。ブロックチェーン、とりわけWeb3においてゲームは立派な稼ぐ手段(ライスワーク🍚)になる可能性を秘めていると思いますが、将来永くプレイされるようなゲームはまだ登場したとは言えず、むしろユーザーから資金を搾取しているといった批判すらあります。
先行者優位のポンジスキームという批判の一部は理解できない訳ではありませんが、その側面だけを持ってGameFiの全てを否定してはいけない、と考えています。
これからのWeb3を考えていくうえで、メタバース(バーチャル空間でのエンタメ)を含め、どのようなゲーム体験、世界観、ユーザーエクスペリエンス(UX)を構築・提供すればユーザーを魅了し続けることができるのでしょうか。
これは、ブロックチェーンゲーム(以下、BG)だけではなく、Web2とは若干異なるUXを持つWeb3プロダクト(プロジェクト)を開発する上でも押さえておきたいマイルストーンになると考えています。
今回は、STEPNが考えるGameFiのトリレンマを概観しながら、Web3プロダクトのUXの在り方やそのマイルストーンについて考察したいと思います。
以下、Main TopicのSummaryです。
Summary
ブロックチェーンのトリレンマは分散性・セキュリティ・スケーラビリティの3つを同時に満たすことが困難なことを指し、STEPNによるとGameFiのトリレンマとは、Playability・Profitability・Accecibilityという関係性だという
GameFiプロジェクトもしくはプロダクトがアダプションするためには、①想定利用者の人口統計が十分に大きく、暗号資産に興味があってフレンドリーである、②収益方法は、クリプトに興味があるユーザーでなくとも理解できて超シンプルなものである、③ユーザーを搾取的で無い、④ゲームのコアデザインは、ゲーム内の暗号資産をスムーズに転送できるよう構築すること、などが必要とSTEPNは考えている
BitcoinやEthereumといったプロジェクトから考えると、プロダクトやプロジェクトのマイルストーンは、トリレンマにおける「取れない手段へのアプローチ」が重要であることがわかる。例えば、EthereumはThe Mergeによりスケーラビリティへのアプローチを決定し、まさに実行しているところ。
Web3の仕組みを現実の世界に適用していくのは様々な障壁があり、ポンジ的だと批判がありますが、GameFiの全てを否定すべきではないと考えています。その理由は、GameFiやゲームを切り口としたタスク化などのゲーミフィケーションは、現実世界を単純化してシンプルなものに再構築し受け入れやすくするというその性質上、Web3のアダプションにおける非常に重要なファクターとなると考えるからです。
GameFiを中心としたゲーミフィケーションは、Web3のカルチャーをアダプションさせる上でも有効な手段であるとして、今後もより一層活用されると考える
その際に重要なゲームのバランスはGameFiのトリレンマやそこから見出せるマイルストーンが参考になるはず
それでは、今週もよろしくお願いします!
Main Topic:🎮 GameFiのトリレンマとWeb3に必要なゲーミフィケーション
前提
「ブロックチェーンのトリレンマ」と「STEPN」について、かんたんに解説します。
Blockchain Trilenmaとは
ブロックチェーンのトリレンマとは、分散性、セキュリティ、スケーラビリティの3つを同時に達成することが困難であることを表します。
今日のEthereumは、分散性とセキュリティを優先させているため、スケーラビリティの課題に直面し、PoSへの移行(The Merge)やシャーディングの実装によりこの問題を解決しようとしています。
STEPNとは
Move To Earnといわれる、NFTを購入してアプリをダウンロードして歩くと、トークンを稼ぐことができるというBGです。
歩くだけでトークンを稼ぐことができ、市場価格がついたので歩くことが稼ぐことにつながるという画期的なコンセプトに魅了され、BGにはじめて参入した、あるいは、はじめて暗号資産を購入した、という方も多くいらっしゃったかもしれません。
STEPNとは何か、についてはすでに多くの方の記事があります。詳しく知りたい方は、以下のCoinpostさんの記事が参考になりました。
前提はここまでです。次は、GameFiのトリレンマについて紹介します。
GameFiのトリレンマ
GameFiとは、ゲームと金融的なインセンティブが複雑に絡んだ新しいシステムのことを指しています。ゲームは娯楽・エンタメであるという概念を根底から覆す可能性があると思います。
ではなぜ、STEPNはこの市場に挑戦しようと考えたのでしょうか。STEPNがMove To Earnという市場に乗り込む際に考えた理由がGameFiのトリレンマを通して理解することができます。
そのトリレンマとは、
Playability(ゲームのやりやすさ)
Profitability(収益をどれくらい出しやすいか)
Accessibility(プレイするための障壁の少なさ)
の3つです。
Playabilityは、ゲームがブロックチェーン上でどれだけスムーズに実行されるかというものです。不安定なネットワークやガス代が高くなる場合、ゲームには向いていません。
Profitabilityは、収益性を意味しています。プレイヤーがどれくらいゲームで収益をあげやすいのか、定量的なタスクをこなした際にどれくらいのパフォーマンスを生み出すことができるのを指しています。
Accesscibilityとは、人々がゲームに参加することを妨げる障壁とそのレベルを指しています。MetaMaskの使用方法や暗号資産同士のSwapなど、何をどう操作すればよいか理解するまでにいくつかあるステップの難易度を示しています。
特にクリプトでは、操作を覚えることはそこまでむずかしいことはありませんが、セキュリティを保ったり、維持管理することは非常に難易度が高いです。
トリレンマの内容
これらがなぜトリレンマなのかという話をします。
ゲームのPlayabilityとProfitabilityを取ると、今あるような既存のGameFiのように「NFTの購入」という参入障壁を作り、ゲームをプレイできる人数をある程度制限したりすることで収益性やプレイ難易度を調整する必要があります。
一方、PlayabilityがありAccessibilityがあると、収益性を維持するのが難しい。これは既存のTVゲームと同じ構造で、パッケージ購入及びダウンロードで課金してもらう必要がある。これだとBGである意味があまりないです。
そして、ProfitabilityとAccescibilityがあるとPlayabilityがなくなる。プレイする人数が傍聴していくにつれて、中央集権的なノード運営がされているブロックチェーン、もしくはプライペートブロックチェーンを活用するといったことが考えられます。(Sweatcoinが挙げられていました)
STEPNが取り組む方向性
STEPNが思い描く将来的なゲーム業界の構成図は、以下のとおりです。
そして、GameFiプロジェクトもしくはプロダクトがマスアダプションするためには、以下のような条件が満たされる必要があるとしています。
想定利用者の人口統計が十分に大きく、暗号資産に興味があってフレンドリーであること
収益方法は、クリプトに興味があるユーザーでなくとも理解できる、超シンプルなものであること
P2Eとしてユーザーを搾取的で無いこと
ゲームのコアデザインは、ゲーム内の暗号資産をスムーズに転送できるよう構築すること
STEPNが出した答えは、「ランナー」という市場であり、そのためこの領域でP2Eゲームを打ち出した、ということなのです。
STEPNの市場調査では、健康情報を管理しているランナーは世界に少なくとも4億人おり、人口統計は暗号資産を利用する年齢層と似ていました。
歩くことで稼げる、という超シンプルな設計を通じて、GameFiのトリレンマに挑戦していくとしています。
参考記事
Axie Infinityの場合
言わずと知れたAxieですが、かつての盛り上がりと比較すると現在は低迷しています。
2022年5月の暗号通貨メディアのDecryptでは、AxieのガバナンストークンAXSが$75弱→$30となり30%以上下落し、最高値$165からは80%以上の下落であることを報じました。ユーザー数も2022年以降下降しています。
ブリッジからの資金不正流出が原因のひとつと思われますが、個人的にはSkyMavis社による新しいトークンモデルと同社に権力と利益が集中するような仕組みにあると考えています。不正流出の原因はマルチシグアドレスの中央集権的な管理方法にありました。
※補足:現在は、不正流出した資金の一部は回収され返金を行う計画があります。
結果として、トークンモデルの変更はゲーム内ユーティリティトークンであるSLPを大きく減少させました。
AxieをGameFiのトリレンマに当てはめるとどうでしょうか。
Axieは、独自チェーン(Ronin)によるPlayabilityとAccecibility(スカラシッププログラムなど)と引き換えに、クエスト報酬SLPの排出量減少といったユーザーのProfitability(収益性)を犠牲にすることとなり、今日のユーザー数の減少に至ったと分析できます。
Web3プロダクトのマイルストーン
GameFiのトリレンマを抽象化し、Web3と呼ばれる領域のUXを提供するプロダクトのマイルストーン(満たすべき条件や指標)について考えていきます。
どのようなバランスを維持すれば、もしくはどのような条件を満たせば、より良いUXを提供できるようになるのでしょうか。
プロダクトが満たすべき条件とはなにか
まず、Playability、Profitability、Accecibilityは以下のように定義してみます。
Playability
ブロックチェーンはセキュアか
ガス代が安いか
トランザクションの処理は高速か
Profitability
情報は自己のものとして管理する権限があるか
収益を得る手段を自らコントロールできるか
Accecibility
トークンエコミクスはシンプルで誰でも理解しやすいものか
利用しはじめる障壁を突破する難易度は低いか
以上のような条件となるかと考えています。
トリレンマのバランス
現状うまくいっているブロックチェーンを参考に考えてみるのが良さそうなのですが、具体的なプロジェクトで大きく成功した(と言えそうな)といえば、以下になりそうです。
Bitcoin
Ethereum
これらの特徴は、ブロックチェーンのトリレンマでいうスケーラビリティを犠牲にし、分散性とセキュリティがあると思います。
これはクリプトの根底を流れているカルチャーだと考えていて、彼らは分散性やセキュリティ(プライバシーといった匿名性)を愛しています。
そのため、クリプトネイティブなユーザーにアダプションするのであればスケーラビリティやAccecibilityへのアプローチが重要となると考えることができます。
一方、クリプトユーザー以外の一般層を対象にしようとするのであれば、逆にバランスを整えるのが難しくなります。なぜなら、PlayabilityやProfitabilityを優先すると一般人には扱えないものとなってしまいます(Accecibilityがない)し、PlayabilityとAccecibilityを優先すると収益性の乏しい、ただのゲームと変わらなくなってしまうからです。
こう考えていくとわかるように、重要なのは、取れない手段へのアプローチであることがわかります。上の例であれば、収益性が低いのであればそれを上回るゲーム性やキャラクターでユーザーを魅了することで収益性のなさをカバーしなければいけません。
GameFiはWeb3における重要ファクター
特にWeb3では自律分散的な運営方法が取られることが多いため、特定の運営主体が存在しないことが前提にあります。しかし、実際のDAOではファウンダーを中心としたリーダーシップがなければ運営が進まないといった課題が現れています。
Web3の仕組みを現実の世界に適用していくのは様々な障壁がありますが、ゲームという切り口は、現実世界を単純化してシンプルなものに再構築し受け入れやすくするというその性質上、Web3のアダプションにおける非常に重要なファクターとなるのではないか、と思います。
ゲーム性を取り込んだサービスが登場し、DeFiやNFTがゲーミフィケーションされている状況は既に存在しており、GameFiという分野は単なるBGに限定されず、Web3のカルチャーをアダプションさせる上で有効な手段であると考えています。Rabbit HoleなどはクエストをこなすことでDeFiプロジェクトを体感することができ、ゲーミフィケーションの良い例です。
リーダーシップがないメンバーであったとしてもゲーム性を組み込んだプロジェクトは、自律分散的に人間が動ける仕組みを作り上げる土台のようなものになると思います。
今回は、GameFiのトリレンマを概観し、Web3といわれる分野のプロダクトに必要な条件やマイルストーンについて考えてみました。思考の整理の参考になれば幸いです。
本日のMain Topicは以上です。
もしよろしければ、「わかりやすい」、「ここが面白かった」といった感想をTwitterでシェアして教えていただけたらありがたいです。より良いニュースレターにしていくために参考にさせていただけたら嬉しい限りです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
暗号資産市場の冬、2022 Summerが始まりましたね。HashHubのTwitterスペースで冬の過ごし方について、信玄さん@shingen_cryptoとMaskJiroさん@interest_aboutが、対談されていました。前回の冬を経験しているお二人だからの知見が学べるので、ラジオ感覚で耳から学習しておきたいと思います。興味のある方はぜひご視聴ください。
(スペースは一定期間後視聴できなくなります。)
それでは、また。
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