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今回は前回の続きです。以下のことを深堀りしました。
Ethereumのメインネットで利用できるようになったのはあくまでERC-4337であり、元々構想されていたAccount Abstractionがメインネットで実現されたわけではない
EthereumのERC-4337では、バンドラーと呼ばれる分散型のインフラを導入していきます。最初は集権的に運営されることが予想されますが徐々に分散的な参加者による運営がなされるのではないか
以上を踏まえて今回は、
ERC-4337の仕組み(バンドラーの役割など)
ERC-4337が実現する近い未来像
今後の展望と懸念事項
についてみていきましょう。読者の方から以下のようなツイートをしていただけました。いつもありがとうございます!
🪢 Account AbstractionとERC-4337を区別する②
ERC-4337の仕組み
ERC-4337では、ぼくらユーザーが作るトランザクションは既存のものとは別のmempool(メモリープール)にユーザーオペレーションとして作成された保存されていきます。ユーザーオペレーションは大量にmempoolに保存されていき、最終的にバンドラーによってユーザーオペレーションが束ねられ、Ethereumのメインネット(もしくはEVM互換性のあるチェーン)のブロックに含められる流れとなります。
以下の図がわかりやすいイメージです。
以下、箇条書きで流れを整理します。
ユーザーがユーザーオペレーションをmempoolに送る
mempoolにあるユーザーオペレーションをバンドラーが束ねる
バンドラーは最も手数料が高くなるようにユーザーオペレーションをまとめたトランザクションを作成する
Entry Pointコントラクトは、スマートアカウントにバリデーションを行い、ユーザーオペレーションが束ねられた情報を検証して実行する
つまり、バンドラーがこれまでぼくらユーザーが行っていたトランザクションの送信を代理して行うことになります。Paymasterは、スマートアカウントに代わってガス代を支払ったりするスポンサーのような役割ができ、Aggregatorは、ゲームなどのたくさん署名を束ねて一つにすることで署名の機会を減らす役割です。
このERC-4337の規格に準拠した最初のプロトコルを開発しているのがStackupです。
上のデモ動画をご覧頂くと、Googleアカウントでログインした後に、NFTのミントサイトで署名なしでミントするという体験が説明されています。
彼らのインタフェースを通じて、ERC-4337に準拠したコントラクトに署名ができるようです。例えば、あらかじめ署名作業を済ませたサイトで、Googleアカウントでログイン→NFTのミントをする、この流れが署名を挟まずにMintボタンをクリックしただけで実行されます。
ERC-4337を利用した近い未来像
ERCという標準規格としてなる前から、コントラクト使ってウォレットのロジックを組むことは可能でした。規格化されたことの意義とはなんでしょうか。そしてその先にどのような未来像を期待できるのでしょうか。
規格化されたメリットとしては、
バラバラのサービスであっても相互運用性が高まる
Ethereumのプロトコルを変更せずにAAに近いUXを実現できる
Bundlerを規格に定めたことで、EOAのみがトランザクションの起点になれない状況を改善できたのが大きな成果だと評価できます。
参考記事:Account Abstractionの誤解と真実
では、スマートアカウントを利用すれば、どのようなユーザー体験が可能となるでしょうか。以下は例ですが挙げてみます。
シードフレーズを管理しなくとも、指紋認証や顔認証を使ったスマートフォンで、アカウントの認証を行いトランザクション作れるようにする
フルオンチェーンゲームで、一つ一つのアクションがオンチェーンに記録される必要のあるゲーム(あるいは一つ一つ署名の必要のないゲーム)でのUXを向上させる
高額な取引には2段階認証を必要とするような権限設定を行う
アカウントにおいて日、月、年単位での利用限度額を設定する
シードフレーズ以外の方法による信頼できる人物を指定したソーシャルリカバリ
サブスクリプションによるサービスへの支払い
以上のようなユースケースを実現できるようになるでしょう。
これは明らかにこれまで実現が難しかった領域に柔軟性をもたらす革命的なUXの改善となると期待できます。ゲームにいたってはこれによりほとんど既存のゲームとUXの面で違いが無くなるはずです。
以下のツイートは、ブラウザに保存されたセッションキーを使って、ユーザーは一回の署名のみでオンチェーンゲームをプレイすることが紹介されています。
ただし、これをEthereumのネットワーク上で行おうとすると高額なガス代が必要となるのは想像に難しくありません。そこで、重要なのがL2などのスケーリングソリューションになります。
今後の展望と懸念
ERC-4337に準拠したコントラクトであればパーミッションレスにバンドラーとして参加して実行することができます。ただし、プロトコルレベルでの変更が行われたわけではありませんので、コントラクトアカウントが上位アカウントになるためには引き続きバンドラーというEOAの役割は必要です。
そこで懸念となるのは、バンドラーによるトランザクションの検閲やMEVを抜こうとしてトランザクションの順序によってユーザー不利益を被ってしまう可能性です。
つまり、どのようなユーザーオペレーションをトランザクションとすれば手数料を最大化できるかというシチュエーションが起こり得るので、バンドラーによる恣意的な操作や順序の入れ替えという問題が起こる可能性があると考えられます。現時点では、MEVのリレーのように問題が今後顕在化する可能性があるのではないかと懸念しています。
Stackupが提供しているようなインフラサービスを提供するプレイヤーが増え、多くのユーザーや事業者が参入してくる可能性があり、そうなればバンドラーによる上記の懸念も緩和されるようになるかも知れません。
理論的には、ERC-4337は誰でもバンドラーを立ち上げることができるように設計されており、通常単一の事業者によって運営される従来のリレーヤーネットワークとは異なります。
しかし実際には、StackUpを除くほとんどのバンドル実装は開発が進んでいないため、ほとんどのERC-4337トラフィックはこれを書いている時点ではStackUpを経由しているそうです。 これは、ほとんどのイーサリアムのトラフィックがGethを経由しているのと同じことですが、 他のバンドルが本番稼動するにつれて、この状況が変わっていくことを期待したいと考えています。ちなみに、ERC-4337はメインネットにデプロイされてはいますが、ドラフト段階にありますので、今後も改善される余地が残されています。
https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-4337
•補足
EthereumにおけるAccount Abstractionは実現するのが難しいため今回のERCでの規格化がかなりメディアで取り上げられていますが、あくまでEthereumでの話です。
例えばCosmosなどのチェーンは既にネイティブでAAのようなUXを実現する機能を備えているため特に問題が起きません。その辺りは理解した上で動向を見ておくのがよいと思います。
さて、本日は以上です。
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