AGIは2027年に誕生する可能性?エンタープライズ・アプリはSoftware-as-a-Serviceから”Service”-as-a-Softwareへ
AI時代のビジネスモデルを先取りする
日本ブロックチェーン協会のオンライン勉強会に登壇しました。
テーマは、Polymarketというブロックチェーンベースの予測市場プラットフォームに関連させ、予測市場の可能性について考えました。
ニュースレターでの事前告知ができなかったのですが、当日は90名近い方がリアルタイムで参加していただき、有意義な時間にすることができました。
後日YouTubeにアップされますので、Xでお知らせすると思います。
ブロックチェーン関連の情報を扱うことができなくなったこのニュースレターの方向性を考えていましたが、なかなかいいコンセプトが決まっていませんでした。
仕事の中で、最先端のテクノロジーとビジネスに関する情報はひたすら摂取しているので、読者の役に立てる情報を提供できないかと思案してます。
コンセプトは走りながら固めていくこととし、今回は「AIで将来のビジネスモデルに変化をもたらす兆しが起きていること」を私の考えも合わせたエッセイとして紹介させてください。
AGIは2027年に誕生する可能性がある
SITUATIONAL AWARENESS - The Decade Ahead という元OpenAIのエンジニアAschenbrenner氏が書いた有名な記事があります。
氏は、AGI(汎用人工知能、人間の博士号レベルの頭脳を汎用的なあらゆる領域に持つ人工知能)が2027年に誕生する可能性が高いと予想しています。
この背景には、人工知能の特性であるニューラルネットが持つ「スケールメリット」があるといいます。
ニューラルネットのスケールメリットとは、ニューラルネットが持つパラメータの数を増やし、質の高い学習データを増加させることで性能が飛躍的に向上する特性のことです。実際、GPT-2(人間でいえば小学生レベルの知能)からGPT-4(高校・大学生レベル)への進化はわずか4年で達成されました。この背景には、計算資源の増加やアルゴリズムの効率化が大きな役割を果たしていたそうです。
つまり、NVIDIAのGPUを大量に購入しAI専用のコンピュータクラスタを建設し、大量のデータと電力を投入し続ければ、理論上は知能の高い人工知能をさらに開発できる可能性がある、というわけです。ただし、現実には計算資源の限界やコスト対効果の低下といった課題も存在します。
GAFAMなどの大企業はこの特性を理解しており、マイクロソフトはOpenAI、AmazonはAnthropicといったAI組織に巨額の資本を投入して、より高度なコンピュータクラスタの構築を進めています。
こうした進展を踏まえると、AGIのレベルに到達するのが2027年という予測には現実味があると感じられます。
現在では、OpenAIがリリースした最新の生成AIモデルは推論機能が強化されており、少ない指示でも適切な方向性を予測しタスクを実行することが可能になっています。これにより、AIは「エージェント」として、より自律的な役割を果たし始めています。また、推論機能の向上にもスケールメリットが働いており、さらなる進化が可能です。
ぼくがこのような背景から考えるのは、今回のAIブームが単なる一過性のサイクルではなく、産業革命にも匹敵するインパクトを持つかも知れないという点です。
ブロックチェーンとの比較では、どちらかが次の主流になるというよりも、それぞれのスピードや特性に応じたコラボレーションが進むと考えています。ただし、AIの進化スピードは異常ともいえるスケーラビリティを持つ点で、他の技術とは一線を画しています。
そのため、まずは分かりやすい領域であるエンタープライズ・ソリューションとしての実用性を考えることが重要だと感じています。
一方で、コンシューマ向けのAI活用が高度化することで、アプリケーション開発や起業に対する価値観も変わりつつあります。米国を中心に注目されている「マイクロSaaS」というトレンドもその一例です。このトレンドについては後半で詳しく触れたいと思います。
AI時代のエンタープライズ・ソリューション
生成AIは、自然言語(チャットで話す会話)を理解して回答します。これがどのような変化をもたらすのか?エンタープライズ・ソリューション例に考えています。
中でも注目されているのが、「Service-as-a-Software」という新しいコンセプトです。これまでのクラウド時代における「Software-as-a-Service(SaaS)」の進化形ともいえるこの概念は、AIエージェントの進化とともに、私たちのビジネスの在り方を根本的に変える可能性があります。
Service-as-a-Softwareとは
これまで、クラウドの進化によってソフトウェアはサービスとして提供され、企業は「月額課金」で利用するのが一般的でした。しかし、AIエージェントの登場により、「ソフトウェアの役割」が再定義されています。
それは、「労働そのものをソフトウェアとして提供する」というもの。簡単に言えば、人間が行っていた知的労働をAIが肩代わりし、その成果に基づいて料金が発生する仕組みです。
たとえば、 Sierra というAIエージェントは、カスタマーサポートの「解決済み案件1件ごと」に課金する成果報酬型モデルを採用しています。これにより、企業は必要なサービスを必要なだけ利用でき、従来の「利用者1人当たり月額〇円」という固定的な課金モデルとは異なる柔軟性を手に入れました。
新しいエージェンティックアプリケーションの波
AIエージェントは、単に仕事を効率化するツールではなく、「仕事を再構築する」存在になりつつあります。ここでは、現在登場している新しいエージェンティックアプリケーションのいくつかを見てみます。
Harvey: AI弁護士として法律業務を支援
Factory: AIソフトウェアエンジニアがコード作成をサポート
XBOW: AIによるペンテスト(侵入テスト)で、従来の人間によるセキュリティテストを補完
Day.ai: メールやカレンダー情報から自動的に生成されるAIネイティブCRM
11x.ai: AIを活用した営業開発ボット
これらのアプリケーションは、単に効率を上げるだけでなく、従来コストが高すぎて提供できなかったサービスを可能にしています。
たとえば、 XBOW のペンテストは、人間の専門家が手作業で行う場合に比べて、コストを大幅に削減し、より広範な企業が利用できるようにしています。これにより、セキュリティ市場の規模そのものが拡大しています。
11x.aiは、営業リードの生成、リサーチ、顧客へのアプローチを担当するAI営業担当「Alice」と、30以上の言語での電話対応が可能なAI電話営業担当「Jordan」という2つの自動化デジタルワーカーを提供しています。
2024年9月に約5,000万ドルのシリーズB資金調達を実施しました。このラウンドはAndreessen Horowitz(a16z)が主導し、同社の評価額は約3億5,000万ドルとされています。
これらのAIエージェントは、企業の営業活動を効率化し、人間の営業担当者がより戦略的な業務に集中できる環境を提供するそうです。従来のソフトウェアは、特定のタスクを自動化するツールとして機能していましたが、AIエージェントはより高度な推論能力を持ち、複雑な業務プロセス全体を自律的に管理します。
従来のSaaSから、AIエージェントによるService-as-a-Softwareとなれば、成果ベースの料金体系を採用でき、顧客も成果に基づいた費用のみを負担すればいいので嬉しいはずです。これは人間を雇用してソフトウェアをサービスとして提供する場合にはコスト的な観点からも実現しにくいはずで、新たなビジネスアプリケーションの波になっていくと感じます。
既存のビジネスモデルを超えて
クラウド時代のSaaSは、主にソフトウェア市場をターゲットとしていました。しかし、AIエージェントは、数兆ドル規模の「サービス市場」をターゲットにしています。この違いが、AIの可能性を劇的に広げているのです。
たとえば、 Day.ai のようなAIネイティブCRMは、既存のCRMプロバイダーに対してまったく新しい競争力を発揮しています。
わずかな情報入力だけで自動的に生成されるCRMは、これまで膨大なコストと時間を必要としていたカスタマイズ作業を不要にします。このような「ゼロから自動生成され、常に最新の状態を保つCRM」は、クラウド時代のSaaSにはなかった魔法のような体験を提供しています。
AIエージェントが変えるビジネスのまとめ
AIエージェントがもたらす変革は、単に既存のソフトウェアを置き換えるだけにとどまりません。それは、次の3つの方向性を示唆しています。
成果ベースの料金体系への移行
「使った分だけ支払う」という考え方から、「得られた成果に基づいて支払う」モデルへのシフトを進める可能性。これは、企業と顧客の双方にとって透明性とコストメリットをもたらす。
エンタープライズアプリケーションの再定義
AIエージェントが業務プロセスを自動化することで、企業は従来の固定的なアプリケーションから脱却し、柔軟で適応性の高いソリューションを活用できる。いくつものSaaSを複数契約するのではなく成果にフォーカスしたサービス利用となる。
新しい市場の創出
例えば、ペンテストのようにこれまでコストが障壁となっていた分野が、AIの力で広く普及する可能性がある。セコイア・キャピタルは、既存のSaaS・クラウドサービスの市場規模を3,500億ドルが形成されているとし、AIの「エージェンティック・リースニング(agentic reasoning)」能力(AIが人間のように自律的に推論し、意思決定を行う能力)の向上により、ソフトウェアが人間の労働を代替する「Service-as-a-Software」への移行が進めば、象となる市場はソフトウェア市場から、数兆ドル規模のサービス市場へと拡大するとしている。
AIエージェントとともにあれ
AIエージェントは、仕事そのものを再定義し、ビジネスの可能性を広げています。それは単なる効率化ツールではなく、企業がどのように価値を提供し、どのように市場と向き合うかを根本から変える存在です。
これからの時代、AIを活用する企業は、これまでの常識に縛られず、柔軟で創造的なアプローチを取る必要があります。
その鍵となるのが、「成果に基づくビジネスモデル」と「Service-as-a-Software」です。この新しい波をいち早く捉えることで、企業間競争で優位に立ち、生き残ることができるのではないかと思います。
もしくは、成長分野で投資が集まるのはこういったスタートアップになると思います。誰か投資させてください。
長くなってしまったので、マイクロSaaSブームについては、次回。
以上です。購読よろしくお願いいたします。🧘