アイデアソンに参加します
前回からマイクロSaaSについて考察してきましたが、実際にぼくもプロダクトを開発してみることにしました。
その第一歩として、週刊 Life is beautifulというニュースレターの企画であるアイデアソンに参加します。入賞すれば賞品としてApple Mac mini(2024年モデル、M4 Pro、メモリ64GB)がもらえるそうです。
Mac miniを目指してアイデアを考えていきます。読者の皆さんも興味があれば一緒に参加してみませんか(入賞はLife is beautifulの購読者限定ですが、それ以外の方もアイデア投稿は可能なようです)。
実は一つアイデアを作って投稿しました。特にニュースレターをたくさん購読しているであろう読者のフィードバックをいただけたらとても嬉しいです🙏 GithubのIssueにそのままコメントいただいてもいいですし、このニュースレターのコメント欄でも大歓迎です。
上手く行きそうなら、読者の反応を見て「開発裏話」をニュースレターで更新していこうと思っています🧑💻
前回のニュースレターでは、以下のような話をしました。
米国を中心に生成AIなどのサービスが充実した背景から、非常にニッチなターゲット層の確実な課題を解消し、小規模ながらソフトウェアを開発して月間1〜10万ドルの収益を目指すブームが起きている
これを「マイクロSaaSブーム」と呼び、既に数千以上のプロダクトがローンチされている。その中でもユニークなプロダクトであるStealthGPTの創業ストーリーを紹介した
StealthGPTの創業者は開発者ではなかったものの、独学でプロダクトのローンチまでたどり着いた。でも、どうすれば彼のようにうまくいくのかという疑問が浮かぶ
そこで、これまで数百のSaaSを開発した経験を持つブレットという人物のYouTubeを紹介し、月収10万ドルを達成するためのSaaSアイデアを見つける方法を紹介した
彼が提唱する、ニーズを捉えて月収10万ドルを達成するためのアプローチは以下のとおりです。
自分が抱えている問題を解決する
既存のソフトウェアの問題点に着目する
acquire.comで既存SaaSを参考にする
RedditやQuoraで「How to」の質問を調べる
Creator Led SaaSを活用する
今回は、この5つのアイデアのうち1つ目である「自分が抱えている問題を解決する」に焦点を当て、いわゆる「バーニングニーズ」の見つけ方について深堀りします。
彼の提唱するこの流れは本当に信頼できるのか、ぼくには疑問がありました。なぜなら、ユーザーに直接話を聞かなくてもいいのかという疑念があったからです。
でも、今回の調査で「バーニングニーズ」について理解を深めた結果、toCのマイクロSaaSに関してはこのアプローチで十分かもしれないという結論に至りました。
その経緯を以下で説明します。
マイクロSaaSでバーニングニーズを特定する方法「ヒアリングか、ソーシャルリスニングか?」
「自分が抱えている課題を解決する」の意味合い
ブレットは、「自分の専門分野や得意な領域、好きな分野で、自分自身が直面している最大の問題を解決するアイデアは、成功の可能性が高い」と述べています。これは、実際に自分が問題に直面しているため、空想の課題ではないということが背景にあります。
プロダクト開発を考えるとき、素晴らしいアイデアが思いついて「よし、開発してみよう」となりがちです。
でも、作ってみたものの誰も使わない、使ったとしても使い続けないという問題が発生することがあります。
これではプロダクトは失敗に終わってしまいます。
バーニングニーズを見出していないプロダクトは成功が難しい理由
なぜバーニングニーズを見出していないと、プロダクトの成功が難しいのでしょうか。
答えはシンプルで、解決しようとしている問題が自分だけのものであり、他の人にとっては切実ではない可能性があるからです。つまり、「ニーズ」が存在しないのです。
自分が得意で好きな領域であれば、見えてくる課題も多いです。
でも、重要なのは「この問題は自分だけでなく、自分と同じような誰かも共感してくれる可能性が高い」と考えられるかどうかです。自分だけの問題を解決しても、市場性がなければプロダクトは成功しにくいでしょう。
アイデア段階では、自分が抱えている問題を解決することは良い出発点です。でも、実際に開発を始める前、もしくはプロジェクトをスタートさせる前に確認しなければならないのは、その問題設定が「バーニングニーズ」であるかどうかです。
バーニングニーズを特定するプロセス
バーニングニーズとは、文字通り「燃えるように切羽詰まった状況に追い込まれている原因」と捉えると良いでしょう。
課題が燃えている状態のユーザーは、プロダクトが使える状態になったら「すぐに契約するので使わせてほしい」という反応を示します。
逆にバーニングニーズではない課題に対しては、「良さそう」という反応が返ってきます。でも、「良さそう」は「お金を払って契約する」とは言っていないのです。
バーニングニーズを特定するプロセスは以下のようになります。
仮説を立てる: ターゲット顧客、彼らの課題、そしてそれに対する解決策を仮定する
ヒアリングする: 仮説を検証するために、潜在的な顧客にインタビューを行い、ニーズを深掘りする
契約を取る: 顧客に提案し、実際に利用・契約してもらうことで、市場の反応を確認する(←開発と同時並行で売ることが重要)
製品を開発する: ヒアリングで得たフィードバックを基に、最小限の製品(MVP)を開発する
仮説段階では、ターゲット、課題、解決策を組み合わせて作成します。できた仮説を様々な人に話して解像度を上げていきます。最初の仮説は大抵間違っているものなので、ヒアリングで得た意見を参考にプロダクトの方向性(ターゲット、課題、解決策)を修正していきます。
特に自分の仮説と異なる意見が出た場合、新しい発見となります。その意見の背景や、その意見を踏まえると新たなプロダクトの方向性がどうなるのかといった「なぜ」や「何を」を深掘りしていきます。
では、バーニングニーズはどうやって見極めれば良いのでしょうか。それは、徹底的なヒアリングにあるようです。
バーニングニーズの特定にヒアリングが欠かせない理由
ヒアリングを行う前提として、仮説としてのターゲット顧客を設定する必要があります。たとえば、AIを用いたソフトウェアテストの自動化製品であるAutifyを開発するスタートアップのCEOである近澤さんは、仮説を立てたターゲット層の企業約60社に営業活動を行いながらヒアリングを進めていきました。
当初、開発していたプロダクトを説明しても「良さそう」という返答ばかりで、契約には至りませんでした。でも、それまでのヒアリングノートを見直すことで、8割のユーザーが言及している課題を特定することに成功しました。これをベースにスライドとデモアプリを作成し、翌日の営業ではユーザーの反応が一変し、「買います!」という返答が得られたのです。
適切なバーニングニーズに対してソリューションを提案できると、ユーザーはこのような積極的な反応を示します。それまで手応えがなかった営業活動が、バーニングニーズを特定し適切な解決策を提示した途端、一気に動き出したのです。これがいわゆる「プロダクトマーケットフィット(PMF)」を達成した感覚なのかもしれません。
このようなバーニングニーズに気づくことができたのは、地道なヒアリングによって、自分やユーザーが抱えている課題から仮説を立て、検証を続けてきたからだと思います。
参考記事: 顧客のBurning needsを解決する
B2BとB2CのSaaSでのバーニングニーズの特定方法の違い
上記のバーニングニーズの特定方法は、主にB2B SaaSが前提となっています。では、マイクロSaaSを作るために顧客一人ひとりにすべてヒアリングをする必要があるのでしょうか?
そもそも、マイクロSaaSのようなアプリは創業当初、B2Cを想定することが多いです(もちろん、B2Bの場合もあります)。この場合、バーニングニーズの特定方法にはどのような違いがあるのでしょうか?
まずは、B2B SaaSのバーニングニーズの特性を理解し、対比してみましょう。
B2B SaaSのバーニングニーズの特性
組織が顧客: 企業や団体が主な顧客であり、意思決定プロセスには複数のステークホルダーが関与する
長期的な関係: 契約期間が長く、カスタマイズや統合が求められることが多い
ROI重視: 投資対効果や業務効率化など、金銭的な成果で測れることが重視される
つまり、法人の利益を明確に上げる、またはコストを明確に下げることに関連していることがB2B SaaSのバーニングニーズです。
一方、B2C SaaSの場合はどうでしょうか。
B2C SaaSのバーニングニーズの特性
個人が顧客: 一般消費者が対象で、意思決定からアクションまでが早い
短〜中期的な関係性: サブスクリプションの解約や乗り換えが容易で、頻繁に行われる
体験重視: 使いやすさやエンターテインメント性、感情に与える影響が重視される
つまり、B2C SaaSにおけるバーニングニーズは、個人が強く求める体験や感情的価値に関連している。
生活を豊かにし、便利さや楽しさを提供するプロダクトこそが、ユーザーにとっての切実なニーズを満たすことができる。
マイクロSaaS(B2C)のバーニングニーズを特定するアプローチとは
以上の考察を踏まえると、マイクロSaaS(B2C)ではB2B SaaSとは異なるアプローチが求められます。
そこで、以下のような方法でバーニングニーズを特定プロセスがいいのではないかという仮説を立てました。
1. 自分自身の課題や興味から出発する
自分が日常で感じる不便や「こうなればいいのに」という思いを起点にする
自分の得意分野や趣味に関連するニーズをリサーチする
2. ニッチな市場やコミュニティへのソーシャルリスニング
X、Reddit、Discord、Slack、専門フォーラムなどでユーザーの悩みや要望をリサーチする
競合サービスのレビューを調査し、ユーザーの不満や要望を把握してプロダクトに反映する
3. LPやプレスリリースを先に作って見せる
最小限の機能を持つプロトタイプやデザインのモックアップを作成し、ユーザーの反応を確認する
早期にユーザーからの意見を取り入れ、プロダクトの方向性を修正する
なぜこのアプローチが有効なのか
ヒアリングを重視するB2B SaaSのバーニングニーズ特定プロセスとは異なるアプローチを採用する理由は以下のとおりです。
膨大な個人ユーザー一人ひとりにヒアリングするのは非効率的ですが、ソーシャルリスニングなら効率的に情報収集が可能
個人ユーザーは金銭的なROIよりも感情的な満足を求めるため、SNSなどでの本音の発言が重要
ただし、直接のヒアリングも重要だと思います。
ソーシャルリスニングで情報を集めた後、深掘りしたい意見を持つユーザーにコンタクトを取り、ヒアリングを行うというアプローチの方が効率的だと思います。
この段階から関係を築くことで、将来的に早期アクセスでフィードバックをもらえる関係性を構築できれば理想的です。
これらの考察を通じて、最初に紹介したYouTubeのブレットが提唱していた「自分が抱える問題を解決する」という手法が、マイクロSaaSにおいて有効である理由が理解できました。
ソーシャルリスニングを活用し、自分自身と同じ課題を持つユーザーを見つけることで、バーニングニーズを特定に繋げることができるからです。
今回は以上です。