✂️Paradigmのパブリックコメントから考える「規制強化とDeFiの分岐点」
規制強化でDeFiはどのように変化するか 2023-06-12 DIVE INTO CRYPTO - #69
おはようございます。Lawrenceです。
本日のニュースレターは、SECによってBinanceとCoinbaseが提訴されている件です。ただし、訴訟の概要や展開を考察することはしません。
今回は、上記の訴訟に関連したParadigmによって提出された”取引所”の定義に関するのコメントを深掘りします。なぜ、取引所の定義について取り上げるのか。
おそらく多くの人が「CeFiに対する規制強化でDeFiが盛り上がるのでは」と考えるかも知れません。その可能性もない訳では無いと思いますが、今回のParadigmのコメントの内容を見れば「そう簡単にはいかない」ときっと思うことになるはず。
その理由は、Paradigmが指摘するSECが示している”取引所”の定義にある。それを深掘りし、規制強化がDeFiにどのような変化を起こしうるか考える。
Table of contents
今回の内容は以下のとおり。
SECによる2つの取引所への訴訟
Paradigmが出したコメントの内容
規制強化がDeFiの分岐点となる
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SECによる2つの取引所への訴訟
まずはSECがBinanceとCoinbaseが提訴している状況をまとめる。スレッドツイートでリアルタイムにあった情報を追加していたので、よろしければそちらを参考にいただくと良いと思う。
概要をざっくりとインプットできるようサマリーだけ以下のようにまとめる。
SEC(米国証券取引委員会)は、BinanceとCoinbaseに対し提訴を行っている
Binance及びそのCEO、CZは顧客の資金を不正に使用し、適切に操作された取引により取引量を大げさに表現したと主張され、さらに、特定の暗号通貨(BNB、BUSD、SOL等)の取引を提供していたと主張
Coinbaseは無登録営業及び連邦規制当局の監督違反により提訴されている。特定のトークン(SOL、ADA、MATIC等)は事前に規制当局への登録が必要であったとSECは主張
Coinbaseは投資家がトークンの利息を得ることが可能なステーキングプログラムを未登録の証券として運営していたと指摘されている
Binanceは法廷で争う姿勢を示しており、その事業の大部分は米国外で展開されていると主張している
CoinbaseのCEO、ArmstrongはSECが暗号業界に対し不適切なアプローチをとっていると非難している
彼はSECがCoinbaseのビジネスを審査し、上場を許可していた事実、そして証券とコモディティの定義についてSECとCFTC間で合意が形成されていないという問題を強調している
ただ、ややバランスを取る必要がある点をあげると、
CoinbaseもBinanceもビジネスで儲けるためにリスクをとって証券と認定される可能性が高いコインを理解しながら上場・販売をしていた
イノベーションであるかと、合法であるかはそもそも全く違う軸の話
そもそも、クリプトの魅力はこういった人間による組織や社会権力からの影響を極力排除したかったはずでは
以上のような指摘はできると思う。こういった視点で書かれたダイヤモンドハンズの記事を読んでおくのがおすすめ。
これらを前提に、本題のParadigmのコメントを見ていこう。
Paradigmが出したコメントの内容
Paradigmとは、クリプトでは超有名なリサーチドリブンのテクノロジー分野へのベンチャーキャピタル。先日、クリプトだけでなくAI分野にも投資を行うことを発表したが、クリプト業界での存在感は依然として大きい。
今回のコメントはParadigmの弁護士チームのロドリゴ・セイラ氏が6月7日に出したもの。コメントは、SECが歴史的に”取引所”とされてきた定義を「再定義」することで、その対象範囲を広げようとする修正案に対するもの。SECは、2023年4月にこの定義に再度コメントを受け付ける期間を設けることを発表していた。
その取引所の定義とは、一般的なDEX(Decentralized Exchange)を伝統的な取引所の定義に含めようとするものだ。
コメント募集の再開にあたっては、いわゆるDeFiを含む暗号資産を取引するプラットフォームに対する既存規則の適用性を再確認するものだ。SEC委員長のGary Genslerは、「多くのDeFiプラットフォームは、すでに現行の取引所の定義に該当するため、証券取引法を遵守する義務がある」としている。
ParadigmはSECに提出したコメントで、「分散型取引所などをSECの取引所定義提案に含めるべきではない」と主張している。具体的には以下が要点だ。
SECの取引所定義提案に対するアプローチが "行き当たりばったり "で、"行政手続法(APA)の規則制定手続 "に違反している
DEXは従来の「取引所」とは基本的な特性が異なる。SECが規制する「取引所」は1)証券取引の仲介役であること、2)集団行動が可能な特定の団体によって運営されていることが特徴
DEXには上記の特徴が無い。DEXでは仲介役がおらず、集団行動が可能なエンティティによる運営もない。DEXは法律が想定する「取引所」ではない
DEX、特に自動マーケットメーカー機構を使用するDEXは、買い手と売り手の間を仲介する個人または団体を伴わず、代わりに、潜在的な買い手または売り手が自由にアクセスできる暗号資産のプールのバランスをとるアルゴリズムを使用する
また、DEXは集団行動が可能な組織、団体、グループによって運営されているわけではなく、多くの場合、変更やアップグレードができない自己実行コードに依存している
したがって、新たに再定義されようとしている "取引所 "の定義があまりにも広範囲に及ぶため、取引所とは似ても似つかぬ存在まで包含してしまうことになる
もしこのコメントが受け入れられず米国での取引所の定義が、DeFiに広がればどうだろう?米国民かどうかをDeFiプロトコルは確認する必要があるというのか、米国民であれば利用制限をするのか。
ぼくがこのニュースレターの冒頭で、今後のDeFiについて「そう簡単にいきそうもない」と表現したのはこうした背景がある。
規制強化がDeFiの分岐点となる
DeFiには今後規制が強くなる可能性がある。
これまでの議論はSECなので少なくとも米国においてはの話だが。欧州ではMiCA法案が欧州議会で承認されたので、おそらくクリプト規制の枠組みは欧州の方が進行しているように見えるのでそちらも進捗はチェックすべき。
CeFiへの規制の強まり→DeFiの盛り上がりという単純な図式にはなりそうにないと思うのは、SECがDeFiに対する規制を強める姿勢を見せている今回の取引所定義を見る限り明らかだ。
ただし、これはぼくの仮説だが規制強化をきっかけとしてDeFiには「分断」が起こるのではないかと考えている。つまり、規制に準拠したスマートコントラクトによる金融と、規制にかからわず純粋な自律分散型のスマートコントラクトによる金融だ。
前者をオープンファイナンスという古くから使われる言葉を用いて呼称されるようだ。後者をDeFiとする動きが出るのではないかと考えている。これらは役割や、果たしている社会的な意義も異なる。
オープンファイナンスでは、これまでのDeFiよりも実際の法規制やビジネスに沿った利用を想定した新たな枠組みとして機関投資家など参入を想定した領域を担う。一方、DeFiではその思想や仕組みをより純粋なものとしてBanklessなカルチャーや金融包摂を実現していく役割を担うようになるのではないだろうか。
両者を利用するユーザーはグラデーションにはなれど、法律という壁で両者間での柔軟な資金の移動は困難であろう。
規制強化によってルールが明確になれば参入できる事業者はいるかも知れない。そういった事業者すら存在せずに少数のエンジニアのコードによって自律分散型的に運営されるプロトコルも引き続き需要はあるはずだ。
これから起きるであろう規制強化がいまのDeFiに変化を促す分岐点になるのではないだろうか。
さて、本日は以上です。
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