今回は、Pendleの概要をDeFi入門者向けに解説する。
公式サイト:https://www.pendle.finance/
参照しているのは、Pendleが公開している「Pendle's Ultimate Guide to Become a Profitable Yield Master」である。
Pendleは、金利(イールド)を発生するトークンを分割すること、それら分割したトークンを売買できるようにする、といった特徴のあるDeFiプロトコル。
その仕組みは、トークンエコノミクスや金融に馴染みの無い方には難しい部分が非常にある。
しかし、DeFiのトレンドでは話題にされることも多く、弱気相場においてもそのポテンシャルに対する評価は大きい。
そこで、Pendleが提供している学習教材をぼくの解釈を加えながら解説することで、その本質的な価値に対する理解を入門者でも深めることが、この記事の目的になる。
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Pendle入門 イールドトークナイゼーションを理解する
🏜️Pendleの概要
Pendleとは、利回り付きトークンを原資産として、「元本トークン」と「利回りトークン」に分ける機能、分けられた元本トークンと利回りトークンを取引することを可能にするDeFiプロトコルだ。
元本トークンのことをPT(Principal Token:プリンシパルトークン)といい、利回りトークンをYT(Yeild Token:イールドトークン)という。
以下の図は、Compoundで100DAIをSupplyしたポジション(左端)を100PTと100YTに分割している図だ。
このように原資産トークンから、PTとYTを分裂させることをストリッピングといい、「イールドトークナイゼーション」と呼ばれる。
よくPendleはLSDfiのジャンルでカテゴリーされることが多い。しかし、Pendleの本質はPTとYTに分割させることによる「イールドトークナイゼーション」と「イールドトレーディング」である。
必ずしもリキッドステーキングトークン(LST)に限定されるものではなく、イールドを内包しているトークン(例えば、GMXのGLP、DEX流動性ペアのLPトークン)も対象になる。
この点は誤解しやすく、されどPendleを理解する上では重要な理解の基礎となる。
Pendleで実現されることは、トークンの元本と利回りが分離される従来の金融における債券ストリッピングに似ている。この場合、PTはゼロクーポン債券に相当し、YT は分離された クーポン支払いに該当する。
原資産である利回りが付いたトークンは、PendleでSYと呼ばれるERC-5115に準拠したラップトークンにし、そこからPTとYTに分割する。
これだけの説明では、まだPendleがどのような価値を提供するのか理解できないはずだ。Pendleの存在意義は、イールドトークナイゼーションを理解することで見えてくる。
💂♀️なぜイールドトークナイゼーションが重要なのか?
なぜPendleは、PTとYTにトークンを分裂させることを可能にするのか?
この背景を理解することこそが、Pendleの本質的な価値を認識することに直結する。
イールドトークナイゼーション?
イールドトークナイゼーションを行うのは、より効率的に高い収益を得るための運用戦略の柔軟性に繋がるためだ。なぜイールドトークナイゼーションが運用戦略の柔軟性に繋がるのか。
イールドを元本と切り離すということは、
元本を先に売却して資本効率性を向上させる
将来的に受け取るはずのイールドを先取りする
などの選択肢の幅を広げることができる。
例えば、stETHの元本部分を先に売却しイールド部分のみを獲得することも可能だし、イールドが短期的に上昇し後に下落すると予想するなら、イールド部分に対してレバレッジを掛けたロングをすることも可能になる。
イールドトークナイゼーションでもう一つ理解しておきたい重要な概念がある。それは「満期(Maturity)」である。
満期(Maturity)とは、PTやYTが償還(引き換え)できるようになるまでの期日のことだ。
PTとYTの「満期日が1年後」だとした場合のそれぞれのトークンの状況を見ることで、PTとYTの役割に対して解像度を上げよう。
PT(プリンシパルトークン)
PTは実際の市場価格よりも安く購入することができる。
1年後、そのPTが満期になればそのPTの全額の額面で償還することができる。
YT(イールドトークン)
YTは元の資産の利回り部分のみである。
つまり、不動産を賃貸として貸し出した場合の家賃収入の部分のみをイメージして欲しい。1年内に家賃の値上げが可能ならこのYTの市場価値は高まる。
YTは期日前であっても発生した収益をリアルタイムで請求して受け取ることができる。
Pendleでは、満期前のPTとYTどちらでもPendle上で売買することができる。これは原資産をPTとYTに分割したとしても、実質的にロックアップされないことを意味する。
満期前であっても、Pendleでイールドトークナイゼーションとその逆の償還ができる。なお、「PT価格+TY価格=原資産トークン価格」となることは方程式になっている。
このようにイールドトークナイゼーションを行うと、イールドを用いた運用戦略が柔軟になる。
具体的にどのような戦略が可能なのかを次に説明する。
👨🏫Pendleを用いた運用戦略の基本
ここからは、具体的にPendleを利用して取ることができる運用戦略の基礎を解説する。解説するのは以下の2つの戦略だ。
PTを割安で購入し固定金利での利回りを得る
YTを利用して金利ロング
一つずつ解説する。
1. PTを割安で購入し固定金利での利回りを得る
固定金利を得ることのメリットは、安定した想定通りの利回りを稼ぐことができる点だ。
DeFiでは変動金利が採用されていることが一般的で、ボラティリティの大きい暗号資産では金利の上げ下げも激しく予想し難い課題がある。
やり方は、「PendleでPTを満期まで保有する」。これだけである。
PTは時価でPendleのAMMで取引されており、金額は需要供給によって変動する。PTが安い時に買うことができれば、固定金利として得られる利益も大きくなる。
インターフェイスを含め、PTをどうやって割安と判断するか確認しよう。
以下は、例である。
上記の表示は、Expiry=満期:2024年1月1日であり、PT Priceが940ドル、Underlying Value(現在価値)が1,000ドルはstETHの現在の現在の市場価格を示す。
Underlying APYとは、現在のLidoのステーキング報酬が5%であることを意味している。
Fixed APYは、固定金利として、現在のPTを満期まで保有して交換すれば940ドル→1,000ドルになるため6.4%の利回りであることを意味している。
もし、Lidoのステーキング報酬が5%よりも上がることはないと予想するのであれば、6.4%の固定金利を得ることは合理的である。
この時、100PT stETHを94stETHで購入したとする。1年後の満期時には100stETHとPTを引き換えることができるため、6.4%のイールドが固定されることになる。
これが固定金利を獲得するという意味である。
2. YTを利用して金利ロング
金利ロングは、金利が上昇することを見込んでそこから利益を得られるポジションを取る、くらいの意味で捉えれば良い。
PendleでYTを購入して、より利回りを得る方法がYTを活用した金利ロングである。
具体的な状況を以下に説明する。
1 YT stETH が0.04 stETHで取引されており、満期は 1 年であるとする。1 YT stETHを保有すると、満期まで 1 stETHの利回りを受け取る権利が与えらる。
いま、1 stETH が 1 年間で 0.04 stETH 以上の利回り (4% APY に相当) を生み出すと考え、1 YT stETH を購入することを選択したとする。
獲得した将来の利回りが、YT stETHを購入したときの価格よりも大きいため、利益を得ることができた。
これがYTを利用した金利ロングの基本である。では、具体的にいつイールドをロングするためにYTを購入すると判断すれば良いのか、説明する。
満期は2024年1月1日である。Implied APYとは、市場で取引されているYTの利回りを示し、市場は stETHの来年の平均APYを4.2%と評価していると分かる。
Underlying APYは、Lidoのステーキング報酬として明示している利回り。
Long Yield APYは、現在の価格で YT を購入および保持する場合の APY。将来の平均 APY が現在の原資産 APY と同等であると仮定している。
stETH の将来の平均 APY が5% 以上に安定すると予測しているとする。これは、現在のImplied APY の4.2%がお買い得であることになる。
なぜなら、ETHが1,000ドルで5%のまま満期が来れば50ドルの利回りが生まれるはずなので、YTを50ドルの利回りを40ドルで買えるからだ。
ここで100 YT stETHを4 stETHで購入したとする。
1年後の満期に、100 YT stETHを5 stETHとして受け取ることができる。つまり利回りは25%ということになる。
もしYTを利用せず、4 stETHを購入していた場合のイールドは5%なので0.2stETHの利益である。しかし、YTを1年間保有することで1 stETHの利益となった。つまりこれは、5倍の利益に相当する。
このようにイールドから得られる利回りを最大化することで通常よりも大きな利益を期待することができるのである。
しかし注意事項がある。それは「利回りの変動」だ。
Implied APY > Underlying APYとなっている場合、Long Yield APYはマイナスになる。
Underlying APY(Lidoのステーキング利回り)が上のシナリオどおり一定であると仮定した場合、YTの購入コストが高くなることを意味している(YTとして持つより現物を持っていたほうが利回りが高い状態を意味する)。
要するに、Long Yield APYがマイナスの時は、YTを購入しない方が良い。
なお、Long Yield APYがプラスであっても利回りが減少してしまえば利益が出ない可能性がある。
つまり、Implied APY(市場がYTにどれくらい期待しているかのAPY)に対して、今後そのAPYよりも高いAPYが持続されていくと予想するのであればYTを購入した金利ロングは有効な戦略となる。
戦略の説明は以上になる。
これはあくまで一部であり、PTが割安、YTが割安になったタイミングで積極的にPTとYTをトレードをすることでAPYを最適化させていく「イールドトレーディング」も行うことができる。
しかし、市場を予測してAPYがどう動くかや、PTとYTの現在価値と参入コストを計算するのが煩雑で入門者向けではない。したがって、今回の記事では解説しない。自分もそこまでのトレードを現時点でするつもりはない。
興味がある方は、「Pendle's Ultimate Guide to Become a Profitable Yield Master」を御覧ください。
本日は以上です。
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