このニュースレターでは、Web3に興味のある方、Web3関連の情報収集を効率化したい方に向け、話題のプロジェクトやトピックをやさしく解説していきます。毎週水曜日朝6時に配信しておりますので、情報収集にぜひお役立てください。クリプトを楽しみながら一緒に学習していきましょう。
Soulbound(ソウルバウンド)という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
Soulboundとは、Soul(魂に) - bound(結びついた)といった意味であり、Soulboundなものは「一度手に入れたら他のプレイヤーに譲渡したり、売買することができない」というコンセプトです。今年1月にEthereum創設者のVitalik氏がブログでこの概念を公開し、話題になりました。
RPGゲームを想像していただくとイメージが湧きやすいかも知れません。たとえば、ゲーム中で最強のアイテムを手に入れるためには、強いボスを倒さないといけません。このボスを倒すためには、キャラを強化し、時間をかけて自分でクエストを地道にこなしていくしかありません。これが他人のアイテム譲渡により簡単にクリアできてしまうとゲーム性が失われます。だから、譲渡できない、売買できないアイテムという「足枷」をあえて作ることでゲーム性を維持するのです。
今回のニュースレターは、今週が前編でクリプト・分散型社会(Decentralized Society: DeSoc)を構成する要素として重要な概念であるSoulboundについて、なぜSoulboundなのか、そもそもSoulboundとは何なのか、といったことを概観していきます。来週の後編では、Soulbound Tokenユースケース・Soulbound Tokenの課題などについて触れ、さらに個人的な妄想についてまとめたいと思います。
やや抽象的で、現時点では構想段階である話も含まれますので、イメージが付きにくい部分もあります。しかし、暗号通貨・NFTといった技術が、将来的に実際の社会でどのように実用されていくかに関わる重要トピックであると考えています。
前回のニュースレターはこちらです。
以下、Main TopicのSummaryです。
Summary
Soulboundは、Web3を単なるコマーシャルワードで終わらせない重要な要素の一つ
Soul とは、個人に対してのみでなく組織にも適用される固有の人格のようなもので、アカウント一つにつき一つのSoulを持ち、アカウントに応じた複数のSoulを一人の人間が保有することも想定されている
人々や組織がお互いにSBTを発行することによってWeb3ネイティブなエコシステムを構成します。論文で言及されているDeSoc(decentralized society)とは、今日の金融ムーブメント化した一般的なWeb3への批判に対する解決策を含むエコシステムの在り方のことです
今日のDeFiなどのDappsを構成するスマートコントラクトでは、実態経済で極自然にできる単純な契約(例えば賃貸借契約)も過剰担保やアルゴリズムなしに対応できない部分があり、これは個人のアイデンティティ(信頼や評判)が譲渡できない属性としてオンチェーンもしくは管理が出来ていないため、です。
一つのユースケースとしては、SoulがSoulbound Token(SBT)を相互に発行することで、大学が卒業生に卒業証書を授与する、という情報を大学Soulが卒業生Soulに卒業証明書SBTを発行することで証明することが可能なのです。
それでは、今週もよろしくお願いします!
Main Topic:🧵Soulbound とはなにか【前編】
なぜ今、Soulboundなのか
NFTが高額取引されるようになり、アーティストの新たな収入源として活用されるようになりました。DeFiでは、ステーブルコインペアでのファーミング、レンディングによる定期報酬など、これまでの金融サービスを根底から覆すイノベーションが起きています。(相場は全体的に下落してますが)
しかし、高額取引されたNFTは投機的に売買されたり、アングラなDeFiプロジェクトのトークン発行による資金集めや、ビジネスチャンスとしていわゆる「To Earn」系が一気に盛り上がりました。Web3がコマーシャルワード化したことにより、もともとのクリプトで語られてきたカルチャーに対し、ビジネスと大衆化という波により大量の資金が押し寄せるようなかたちとなりました。
これ自体全く否定されるべきものではありませんが、クリプトが社会にもたらす変化はこんなものではなく、私たちの想像をはるかに超えるものだと考えています。その可能性を秘めているといえるのが、「Soulbond」であり、Web3を単なるコマーシャルワードで終わらせない重要な要素なのです。
Soulbondの特徴は「Non - transferable(譲渡できない)」であり、「Non - financialized(金銭的価値を必ずしも伴わない)」 です。NFTが富を示すものであること以外に、実際に何かを証明できるとしたらどうでしょうか。
市場が波を繰り返すタイミングだからこそ、社会的に意義のある(と言える)、(お金持ち以外の)誰もが価値を享受することができるであろう技術に目を向け、学ぶ事に意味があると思うのです。
Soul - DeSoc - Soulboundという概念
Soulboundは、Vitalik氏のブログによって公開されましたが、今年5月にはSoul、DeSocという概念とともに、経済学者で社会技術者のE. Glen Weyl氏、弁護士のPuja Ohlhaver氏、Ethereum FoundationのVitalik氏の3人によって論文が発表されました。
以下、非常にかんたんではありますが、概念を解説します。
Soul
Soulとは、インターネット上のアカウントひとつにつき1個だけ持てる固有の「人格」のようなものです。
ぼくの場合、本名のSoulとLawrenceというSoulを持つことができます。Soulは個人だけでなく企業、大学など法人であっても各々ひとつ持つことが想定されています。
Soulboundとは、このSoulに紐づいた状態です。Soulは誰にもあげることは出来ませんし、いくら価値が着こうとも売買することができません。リアル世界で、臓器売買ができても人格売買が出来ないのと同じようなものだと考えています。
DeSoc
DeSocとは、Decentralized Societyの略で、以下のような特徴があります。論文のDeSocで語られている部分を個人的な解釈でまとめてみました。
現在のWeb3は金融システムとして膨張しましたが、根本的な人間の繋がりや社会的なアイデンティティが欠落している
そのため現在のDeFiなどでは実経済で行われているような人間同士の単純な契約ですら実現できない
NFTマーケットプレイスなどでは、本人確認にTwitterなどのWeb2サービスに依存している構造である
これらの課題を解決し、よりWeb3の理想的なストラクチャを実現する社会(もしくはエコシステム)をDeSocという
DeSocを構築する上で最も重要な要素が、譲渡不可能なSoulに紐づいた(Soulbound)なトークンをSoulBound Token(SBT)と呼び、譲渡できず、自己を証明できる構成要素とする
クリプトニュースメディアDecryptの記事では、以下のように記載されていました。日本語訳しています。
DeSocは、政治と市場の交差点に位置し、それが適合するより広いWeb3コンテキストと同様に、ネットワークユーザーによって所有および管理される構成可能性、ボトムアップコミュニティ、協力、および緊急ネットワークの原則に基づいています。これは、ハイパーファイナンシャル化に向けたWeb3の軌道を、より包括的で民主的で分散化されたものに拡張することを目的としています。
Soulbound
この記事を書いている時点では、Soulboundはアイデアであり、技術的な仕様やメカニズムについて、詳細に解説されてはいません。
冒頭にも触れましたが、Soulboundは以下のような特徴があります。
譲渡できない(別のウォレットにTransferできない)
市場価値を持つような設計ではない
Soulboundされたトークンはその名のとおり、Soulbound Token(SBT)と呼ばれ、Soulというアカウントによって発行され、そのアカウント内に保持されます。重要なところは、人間に対して1:1に限られる訳ではなく、DeSocにおいては複数のSoulを持つことが可能だとされています。
実際の経済活動と同じように、人柄に基づいた評判や経歴を証明することに使われ、その用途は個人、組織、その他の実体などに関連づけることができます。
たとえば、高校や大学を卒業した履歴(卒業証書)を教育機関SoulがSBTを発行し、卒業生Soulは卒業証書SBTを保持することによって、学位を証明します。
SoulboundとPOAP
Financializeが目的ではないトークンの代表としてPOAP(Proof of Attendnce Protocol:出席証明プロトコル)があります。POAPは、イベントに参加していたことをオンチェーンで証明する標準規格です。
しかしもし、誰かが自分の持っているPOAPを欲しいと思った場合、POAPは譲渡可能であるため、ある事実を証明をしたい場合には**信頼が保つことができません。**誰かから購入した卒業証明書に何の価値も付かないからです。
実際、adidasが発行したPOAPは無償でファンに提供されましたが、熱狂的なadidasファンよりも投機目的の投資家によるトランザクションの方が多かったのかも知れません。このPOAPは高額で取引されたようです。
ガバナンスの権利にSoulboundが与えられた場合、それはあたかも実際の社会における民主的な投票と同様に、一人一票という投票の平等(平等選挙)を実現することができ、今日のDeFiで繰り広げられたCurve Warは起こらなかったかもしれません。
参考:Vote Escrowed (ve)Tokenの仕組みとCurve Warsをリサーチしました
Curve War自体は、各Dappコミュニティ(もしくはDAOと称するもの)が最適な報酬分配と自己経済圏の拡大、流動性確保を目的に行動していただけです。結果として資金力・魅力のある一部のグループにガバナンスの実権が握られていました。実権が集中することが必ずしも弊害をもたらすわけではありませんが、分散されたガバナンスを指向するカルチャーとは馴染まないといえます。
ガバナンス権(投票権)が、利害関係を持つことを望む人すべてに行き渡るとすればどうでしょうか。そしてSBTを活用すれば、社会的な関係性や評判、個人のアイデンティティをトークンにより証明しつつ、クジラによる過度な影響力を排除し、本質的な意味で分散されたガバナンスが実現できるかもしれません。
前編のおさらい
前編では、Soul、DeSoc、SBTの概念について解説し、POAPを例にしながらSBTの意義について概観してみました。
要するに「譲渡できないNFTに個人の社会的な記録を紐付けよう」という試みであると捉えています。
課題としては、実際にどのようなユースケースがあるのかや、プライバシーをどのように守るのか、といった問題があるかと思いますが、そのあたりは後編で触れたいと思います。
来週もぜひお楽しみください。
前編は以上です。
来週の後編では、Soulbound Tokenユースケース・Soulbound Tokenの課題などについて触れ、さらに個人的な妄想についてまとめたいと思います。
もし、「わかりやすい」、「ここが面白かった」といった感想がありましたらコメントやTwitterでシェアして教えていただけたらありがたいです。より良いニュースレターにしていくために参考にさせていただけたら嬉しい限りです。
🔗参考記事
読者のコーナー
読者からのコメントを紹介していきます。ぜひアウトプットや交流にお役立てください。
DAO2DAOの動きは最近面白いと思っていて、そのあたりを見据えた気づきとなるツイートでした。いつもありがとうございます!
最後までお読みいただきありがとうございました。
BTC、ETHが下落ですね。技術が変わった訳ではないのに、市場価格は一番高いときから半分ぐらいになるというのもいまのクリプトの醍醐味かなと思います。過大評価されていたものの熱が冷め、今度は過小評価されてきた技術が日の目を迎える日が来ると思っています。
それから、Luna-Tera騒動、stETHのデペグ、Web5、CeFiセルシウスの出金停止などニュースが絶えませんが、Twitterの賑わいが若干大人しくなったように感じます。忙しさのあまりツイートできておらず、市況の状況もあいまって閑散ムードを醸し出さないよう、引き続きリサーチしつつ、勉強して、情報発信していきます。クリプトを楽しんでいきましょう。
それでは、また。
以下の「Subscribe」をクリックすると毎週水曜日朝6時にメールでこのコンテンツが届きます。情報収集にお役立てください⚡️🎧
「いいね」と思っていただいた方は、ぜひ♡のクリック、コメント、Twitterでのシェアをお願いします!通知を確認したらリツイートさせていだきます。
バックナンバーはこちらからご覧いただけます。
⚡️Twitter:@LawrenceTokyo
🎧Podcast:Start-up Crypto Channel
🚀Discord:Crypto University