インテント(Intent-Based Architecture)がパラダイムシフトをもたらす理由
IntentとAccount Abstractionがもたらすweb3アダプション - #81
今回はEthereumのコアな開発者の中で議論されている「インテント:Intent(Intent-Based Architecture)」について。
インテントとは、日本語では「意図」と訳されるように自分の意思にそったトランザクションが実行される仕組みのことをいう。
なぜインテントが議論されているのか?どうしてインテントが必要なのか?
これらの答えは、web3がマスアダプションするために必要だから、だと思う。
インテントは、アカウント・アブストラクション(AA:Account Abstraction)とも関連する重要テーマ。
この記事では、インテントとは何か、その仕組みやメリット、どのようなリスクや課題があるのかを技術的な知識が深くなくても理解できるようにできる限りわかりやすく解説し、そのもたらす効果を検討する。
現時点で筆者はインテントの概念は、将来的に当たり前のようにユーザーが使うようになる重要概念であることを確信している。
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🧵Contents
インテント(intent)とは
Intent-Based Architectureに必要な要素
考察と所感
インテント(intent)とは
インテントとは、日本語では「意図」と訳されるように自分の意思にそったトランザクションが実行される仕組みのこと。
市場としては以下のようなカオスマップがある。
現在のクリプト・web3でのユーザー体験は、決してユーザーに親切な設計にはなっていないのは誰もが納得できることではないだろうか。
仕組みを理解する知識は膨大、秘密鍵での署名管理の複雑さ、スキャムやハッカーと隣り合わせな環境、ブリッジしてからでないとスワップできない結局不便なマルチチェーン。
やっとスワップできたとしても注意していないとフロントランニングやサンドイッチ攻撃のエサになる。
インテントは、ユーザーの負担を軽減するために研究されたアーキテクチャだと言っていい。つまり、ぼくらエンドユーザーのためのUX改善である。
どのようにUXの悪さを解消するのか。
インテント(intents)は、取引の具体的な手順ではなく、”取引の望ましい結果”を指定することを可能にする新しいトランザクションの在り方である。
Paradigmの図がTransactionとintentの違いを分かりやすく解説しているので引用する。
通常のトランザクション(Transaction)では、「Aを行い、Bを行い、Cを正確に支払ってXを取得する」と指定する。
一方、インテント(intent)では「Xが欲しい、最大Cまで支払う」と指定するだけだ。
つまり、プロセスを制限はせずとも制御し、トランザクションの作成をサードパーティのアクターにマッチングを委任(デリゲート)することができる。
ジョジョの奇妙な冒険のDioが言った以下のセリフをイメージすると分かりやすい。
いわば宣言型だ。
インテントを使えば、ユーザーは自分の望む結果を簡単に表現できる。これは、すべてのパラメータをユーザーが明示的に指定しなければならない現在の命令型の価値観とは対象的な結果をもたらす。
先日Uniswap V4が公開された。これはフックと呼ばれる条件を設定すればユーザーが自由な取引が可能になる機能を備えている。指値注文やドルコスト平均法での購入など多彩だ。
恐らくUniswap V4のフックはこのインテントを見越しているはずである。Uniswap Xも恐らく同様だ。
Uniswap V4とXの詳細についてはHashHubでレポート(有料)を書いたのでよければ読んでほしい。
関連:Uniswap V4/Xの概要 流動性プールの挙動の柔軟性とルーティングアイデアの吸収
Intent-Based Architectureに必要な要素と課題
現在の命令型トランザクションだけの世界では、web3がアダプションするために不十分である。
現在のEthereumのmempool(未決済のトランザクションが滞留するところ)には、インテントがサポートされていない。
Paradigmの記事よれば、このmempoolをパブリックにするかどうか、パーミッションレスにするかなどのが議論されている。しかし、最適な設計に関する結論は現時点で出ていない。
では、命令型からインテントの宣言型を中心とした世界観(これをIntent-Centricという)に移行するには、何が必要な要素なのだろうか?
バスティアン・ヴェッツェル氏の「Intent-Based Architectures and Projects Experimenting with Them」によれば、それは**アカウント・アブストラクションのアーキテクチャ(現時点ではERC-4337)**である。
ERC-4337は、ユーザーは直接トランザクションを作らず、ユーザーオペレーション(UserOp)に署名して意図するトランザクションを命令する。
ユーザーから届いたUserOpを束ね、バンドルとしてエントリーポイントに送信され検証され、トランザクションが実行される。
以下の図がその全体像だ。詳細は過去のこのニュースレターを参照してもらいたい。
彼の主張をまとめると以下になる。
アカウント・アブストラクションは秘密鍵の管理を簡素化し、ガスレス取引などの利点があるが、これだけでは不十分。
アカウント・アブストラクションの真の価値は、ウォレットをインテントの意思表示の入り口に変える点にある。
現行のアーキテクチャでは、マルチチェーン環境での高度なトランザクションが手動となる。
インテント中心のアプローチを採用することで、ユーザーは意図を宣言し、サードパーティがその実行を担当できるようになる。
公正に稼働するサードパーティの仕組みと、インテントベースのトランザクションのアウトソーシングが必要。
目標は、MEVを最小化し、検閲耐性を向上させ、クロスドメインの相互作用(インターオペラビリティ)を最適化すること。
インテント・プロトコルネットワークレイヤーの設計は、ユーザーとのコミュニケーションとエクスペリエンスのバランスを考慮する必要がある。
従来のアカウント・アブストラクションの仕組みでは、ブロックビルダーやバンドラーなどが新たな中央集権的リスクを生むといった問題があり、信頼や透明性の観点で適切ではない可能性がある。
そこで、現時点ではこれらの懸念を軽減しながらインテントレイヤーを構築しようとするプロトコルがいくつかある。
インテントは、アカウント・アブストラクションのようなプロトコルレベルでの適応だけでなく、アプリケーションでの導入も可能であり、その代表がCowSwapや1InchやUniswapXである。
このジャンルは昨今新たなプレイヤーが多く参入しており、今後急速な進化を遂げるかも知れない。
現時点で具体的にどのようにユーザーがインテントを意思表示し、それをネットワークが受け取るのか、またはアプリケーションが受け取るのかは分からない。
さらに、インテントレイヤーではないクロスチェーンインテントを実現するにはクロスチェーンでの取引には相応の移送プロトコルが必要だろう。その点では、ChainlinkのCCIPがメジャーなプロトコルとして利用されるようになるのではないだろうか。
考察と所感
まず、インテントセントリックになれば面倒なブリッジ作業や思考が減少する。これは格段にユーザーフレンドリーな体験を向上するものとして期待できる。
しかし、セキュリティ上の不安はあると思う。プロセスは指定しないゆえに、その過程に何らかの脆弱性を抱えたコントラクトを経由した場合など、想定しないリスクを負うのではないだろうか。
また、プロジェクトも構想や議論を継続している段階であり、真に効率的で分散化されたインフラが構築されるのは、かなりの年月がかかるのではないだろうかと想像する(少なくとも3年くらい?)。
とはいえ、ERC‐4337の後押しもあり、インテントの普及が進むにつれて、ユーザーがインテントレイヤー(代替のmempool)を利用する傾向、もしくはUniswapXを使ったインテントを利用するシチュエーションが見られる可能性はあると思う。
ただし、Paradigmやバスティアン氏が指摘するように、オフチェーンでの中央集権化リスクやレントシーキング(公共財へのフリーライド)を行う仲介者を防ぐために、慎重なアーキテクチャ設計と管理が必要だと思う。
本日は以上です。
あなたは、インテントがweb3のマスアダプションにどのような影響をもたらすか?感想をコメントで教えていただけたら嬉しいです。Twitterでのシェアもとても嬉しいです。
※本記事は、Paradigmの「Intent-Based Architectures and Their Risks」とBastian Wetzel氏の「Intent-Based Architectures and Projects Experimenting with Them」を筆者が解釈し展開したものです。
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