このニュースレターでは、Web3に興味のある方、Web3関連の情報収集を効率化したい方に向け、話題のプロジェクトやトピックをやさしく解説していきます。毎週水曜日朝6時に配信しておりますので、情報収集にぜひお役立てください。クリプトを楽しみながら一緒に学習していきましょう。
今回は、コミュニティ(もしくはDAO)がプロダクトを所有し、運営をしていく上での現状や課題について取り上げ、それらについての解決策を考えていきます。
Web3では従前のWebサービスと違い、運営者もプロダクトを取り巻くコミュニティの一員として運営するという考え方(裏を返せばユーザーがオーナーシップを持っている)がありますが、これをうまく実現するのは非常に困難であることは、なんとなく想像がつくかと思います。
Web3では、ガバナンストークン発行によるプロダクトの所有という概念が現れ、プロダクトの方針にユーザーが関与できるようになりましたが、これは初期の貢献者に対する報酬といった文脈でも語られており、ブロックチェーンのおかげで「いつ、誰が、何を」といった記録がパブリックに証明され、改竄されにくいことから実用的になったことです。
こうした背景で、2022年にはDAOに注目が集まり、コミュニティでプロダクトを所有する(あるいはガバナンスする)という仕組みへの移行が進んでいるプロジェクト(Uniswap、Sushiswap、yearnなど)があり、筆者の周りでも多く見受けられます。
先日のニュースレターで紹介したHiÐΞプロトコルでも、メディアDAOというガバナンス機能をプロトコルに与えるDAOの仕組みが構築されていることを取り上げました。
参考:プロトコルにガバナンスを与えるDAOによるWeb3経済圏への招待
そこで今回は、コミュニティとプロダクトの関係性を軸に、プロダクトをコミュニティが所有する(ガバナンスする)とは何なのかについて、深掘りしたいと思います。
以下、Summaryです。お急ぎの方はこちらだけでMain Topicの概要が分かります。
Summary
Web3では従前のWebサービスと違い、開発運営だけでなく、コミュニティがプロダクトを取り巻く一員として所有して運営するという考え方がある
Axieでは現状、運営が莫大な金額を稼いでいる一方、ユーザーに対して運営にもたらされた金額に比例した富が分配されているかが不透明。現在、DAO移行を検討している
コミュニティがプロダクトを所有してガバナンスするためには、コミュニティ自体の成熟や知見の集積と報酬体系の整備、コアメンバーの立ち位置、プロジェクトマネジメントなどさまざまな課題がある
解決策としては、経済合理性のプロトコル化、コミュニティへのEXIT、Web2メンタルブロックの解消が考えられる
プロダクトに関わる運営者はもちろん、コミュニティメンバーやチェーンにある別のプロダクトも含めて一緒にエコシステムを大きくしていくという姿勢がWeb3のカルチャー。みんなで勝つ・チームで勝つという意味において「Web3はスラムダンクである」というふうに思う
それでは、今週もよろしくお願いします。
1. Main Topic:【Web3はスラムダンク🏀】コミュニティでプロダクトを所有することの現状と課題と解決策の考察
前提
本題の前に、先週起きたAxieのRonin Bridgeで過去最大規模の不正流出があった件について触れます。P2Eゲームの運営者とユーザーの関係性を見ていくと「プロダクトの所有」という考え方が分かりやすくなるからです。
Ronin Network資金不正流出の概要
NFTゲーム「Axie Infinity」のサイドチェーンを開発する「Ronin Network」は、Ronin bridgeから17万3,600ETH(720億円相当)、2,550万USDC(31億円相当)が不正に流出したことを発表しました。
原因はRoninNetworkのバリデータ9人のうち、5人の秘密鍵がソーシャルエンジニアリングにより流出したことです。スマートコントラクトのバグをついた先日のWormholeのハッキングとは内容が異なるのが特徴です。
Coinpostの調べによると、このETHのうちの56,000ETHはAxie Infinityトレジャリーに属するもので、Sky MavisはRoninのハッキングを受け、影響を受けたユーザーに全額償還することを約束し、約2,000億円に相当する資産を保管しているコミュニティトレジャリーから拠出するといった提案が挙げられているところ、だそうです。
参考:「アクシーインフィニティ」のRoninブリッジ、700億円超相当の仮想通貨が不正流出
現在、CEXなどと協力し、返金やブリッジへの返済をするための調査をすすめています。(公式のアップデートはこちらの記事から確認できます。)
ちなみにCoincheckの資産不正流出の被害総額は約580億円なので、それをはるかに超える規模です。
運営とコミュニティにあるギャップ
疑ってかかるような見方ではありますが、Axieにこれだけの資金が流入しており、その補填が運営から実現可能であるということから、相当な資金的余裕がAxieにあったことが推測できます。
もちろん運営としてある程度の運転資金は必要である一方で「もっとコミュニティのユーザーに利益を還元できる仕組みを作ることができたのではないか」という疑問をどうしても感じてしまいます。ゲームのエコシステムを支えているのは開発者だけでなくユーザーもだからです。
Axieの運営利益はマーケットプレイスやブリーディングの手数料収入が主な収入源であり、費用としては人件費が最も大きなコストのはずです。しかし、ユーザーが支払った資金はトレジャリーに入っていきますが、運営者はゲームが無ければ無価値のトークン(SLP:Smooth Love Potion)をユーザーにバラ撒き、「ゲームの持続可能性」という文句で排出比率の変更ができます。この構図に対してどうしても違和感を感じてしまうのです。
この点については、shingen.ethさんがツイートされていました。
また、以下のようなツイートされている方もいらっしゃいました。
そのため、この認識はあくまで、”現時点での” Axie Infinityを含めた「ガバナンスがコミュニティに移行していないP2Eゲーム」への個人的な意見であることを申し添えます。
Axie Infinityは、ロードマップでDAOによる投票制に移行していくとしており、現在は過渡期です。今後は方針決定のプロポーザルを可能にしていくことで、分権化を目指しています。なお、SkyMavisへの手数料収入はどれくらいなのかは不明です。
Axieはエコシステムの発展こそがユーザーに対する最も優先すべきメリットであると考えていると思います。結果的にエコシステムの拡大には成功しアクティヴユーザーは280万人ほどになりましたが、その280万人はゲームの開発方針の中核の議論や意思決定に直接参加できているわけではないでしょう。
P2Eゲームでは、これまでの消費するゲームから資産価値の所有というパラダイムシフトがもたらせれました。この中核にあるのは開発だけでなくユーザーコミュニティです。
「売上はすべて自社の利益」という考え方は、これまでのWebサービスでは当たり前ですが、「Web3では、その利益を生み出すこと自体に貢献したユーザーにも利益を共有しながら車の両輪のように成長していくことが必要」なのではないでしょうか。
Axieをとおして、プロダクトとコミュニティの関係性に触れたところで、つぎはコミュニティ(DAO)がプロダクトを所有することの現状と課題について整理していきたいと思います。
コミュニティ(DAO)でプロダクトを所有することの現状と課題
ますは現状を整理するため、「コミュニティがプロダクトを所有する」とはどいうことか、要素をあげてみます。
プロダクトのガバナンストークンなどで方針を決定できる
コミュニティには誰もが参加でき、プロダクトはオープンソースである
ブロックチェーンのスマートコントラクトが収益を自動的に稼いでくれる
たとえば、ステーキングなどでコントラクトに資金をプールします。この資金がスマートコントラクトでDeFi運用・手数料徴収などで収益を生みます。これらの財源をコミュニティによるガバナンストークンなどで資金使徒を決定します。開発者の雇用や報酬、マーケティング費用に使われます。そして残りの報酬をガバナンストークン保有者に分配する、といった機能がある状態をここでは、「コミュニティがプロダクトを所有している」と定義します。
現状
以下のような現状ががあると思います。
コミュニティが未成熟であり議論ができない
提案内容によっては無関心なメンバーを取り込むことが難しい
プロダクトをガバナンスするための知見がコミュニティに足りない
積極的な貢献者に対する報酬を定義できていない(資金的に用意できない)
ガバナンストークンの発行自体が日本の資産課税の含み益と認識されてしまう
コミュニティの決定に誤認やプロパガンダが含まれたときの方向修正が困難(いわゆる衆愚の問題)
などがありえると思います。
開発初期は優秀なリーダーの存在が不可欠ですが、一方で民主化(分権化)の結果、6つ目にあげた課題のような衆愚政治に陥ってしまった場合の方向修正の手段も必要です。その決定自体もコミュニティが選んだ末路、ということであればしょうがないのかも知れませんが、フルコミットで働いている人からすれば死活問題でしょう。
課題
現状を受けて課題として整理してみます。
コミュニティが成熟するためにはどうしたらいいのか?
コミュニティ成熟するとはどういうことをさすのか?
熱量の高いメンバーへの貢献報酬をどうするか?
知見が足りないコミュニティにどうやって情報を行き渡らせるか?
ガバナンストークンなどの位置付けをどうするか?
衆愚に陥ったときのためのコアメンバーの拒否権を用意すべきか?
など、一朝一夕に解決できるようなものではないということがわかります。コミュニティがプロダクトを所有したDAOで働くということは、こういった課題に向き合い、プロダクトを前進させていくための無数の仕事を解決していくことなのでしょう。
プロダクトを所有し運営していくための解決策を考える
単にスマートコントラクトをデプロイし、その周りに人間が集まればすぐにコミュニティによる所有がうまく回り始めるわけではないということがみえてきました。
そこで、どうすればこれらの現状における課題を解決していくことが可能なのか、について考えていきます。
解決策①:経済合理性のプロトコル化
Bitcoinの仕組みを考えると、マイナーは自分の利益(マイニングによるBTCの新規発行)を求めて行動することが、Bitocinのネットワークを支えることに繋がっています。しかし、ネットワークを支えたいという意思はマイナーにはありません。経済合理性にのみしたがっているにもかかわらず、Bitcoinは維持されています。
コミュニティにおいて、貢献すること自体が経済合理的であるという仕組みを組み込むことができればBitcoinのようにプロダクトに対するガバナンスに悩む必要を抑えることができるかも知れません。ただし、人間は経済合理性だけでは動かず感情で動きます。感情の部分も考慮しなければ細かいコミュニティの意見を反映させたガバナンスは難しいでしょう。
解決策②:コミュニティへのEXIT
コミュニティの成熟には時間がかかります。そして成長するためには中心的なメンバーやリーダーが複数存在していることが重要です。このため、スタートアップのような企業を中心にまずはコミュニティを形成し、そこから成熟したプロダクトコミュニティへと成長させていく、伴走していくという取り組みができると思います。
コミュニティにリーダー的なポジションが集まり、プロジェクトごとに小さなチームが形成されるといった段階を経ることができれば各メンバーが自律的に目的やビジョンに向かって行動できるようになっているはずです。こうした形態になった時に、コミュニティへプロダクトをEXITし、運営者もコミュニティのメンバーとして対等に関与していく方法が考えられます。
解決策③:Web2メンタルブロックの解消(感情論)
これまでのWebサービスに慣れてしまったわたしたちは、より良いサービスを受けたいと考えた時、運営に改善を求めるか、利用をやめる、という発想しかありません。
しかし、Web3ではプロダクトのオーナーシップを持つことができます。自分が何らかの形で貢献したり、自らそのサービスに対して影響を及ぼしていくことで、プロダクトを改善させていくことができるのです。このメンタルブロックの解消には、地道な情報発信とコミュニティ運営を通したビジョンの提示と活動で、ユーザーの感情に訴えるしかないと思います(大雑把な言い方しか言語化できておらず申し訳ないです)。
プロダクトに関わる運営者はもちろん、コミュニティメンバーやチェーンにある別のプロダクトも含めて一緒にエコシステムを大きくしていくのがWeb3のカルチャーだと思います。そういった意味において、「Web3はスラムダンクである」というふうに考えるのです。
以下のツイートで汲み取っていただけたら幸いです。
解決策を検討してきましたが、具体的な方法についてはまだ明確な道筋はありません。
Nouns DAOは、Web3のプロジェクトとして有名な例であげられることが多いので参考にできる部分がたくさんあると思います。以下の記事が詳しいです。
本日のMain Topicは以上です。
2. Web3 Topics
今日までに気になったWeb3に関連する話題を取り上げます。
アメリカ最大の銀行の一つであるゴールドマンサックスのメインLPが以下のツイートに掲載されているようなページになりました。
つい半年前までは、「暗号資産は資産ではない」といっていたLPがいまでは、「経済を再形成している暗号通貨の目がトレンドを探る」というタイトルになっています。大きな変化が金融業界に訪れていることを感じますね。
(なお、すでにLPは別のものに変更されています)
2.ロシア富裕層の「制裁逃れ」にビットコインが悪用されているという話で考える、人間社会の脆弱さ
ロシアに対する経済制裁がビットコインやイーサリアムに骨抜きにされている点を指摘しています。自律分散型の社会は、いわゆる無政府主義状態と変わらず無法地帯を生み出すものであるという人の心の脆弱性について書かれていました。
ロイター社の報道を元にした日経新聞の記事を引用しています。要点は以下のとおりです。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が金融制裁を科されたロシアで暗号資産(仮想通貨)の利用が急増していると指摘
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はデジタル通貨全体への規制が必要だと強調
ラガルド総裁は暗号資産の交換や取引を進める業者について、制裁回避の「共犯者」という強い表現で警告した。当局の規制が及びにくい暗号資産への警戒をあらわにした
既存の金融は暗号資産を前提に作られていないので、規制が難しい状況は止むを得ない。どのような枠組みとなるのかは続報を追う必要がありそうです。
3.MetaMask Mobile v4.3.1 is LIVE with some exciting updates:
MetaMaskがiOSアプリでApple Payに対応することを発表しました。トークンの購入においてApple Payにクレジットカードを登録しておけば、クレジットカードからトークンの購入ができます。Apple税を払うことになるのですが、手間や取引所手数料を考えると微妙ですが便利ではありそうです。
それからダークモードが搭載されるようになるとのことです。
4.平将明衆議院議員公式サイトで自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PTのNFTホワイトペーパー(案)が発表
NFTホワイトペーパーとありますが、中身はWeb3で日本がどうNFTを駆使した戦略で復活するか、という熱い内容です。
テーマは以下のとおりです。
PTでは6つのテーマに沿って、24の論点について課題と提言を整理しました。
《テーマ》
① 国家戦略の策定・推進体制の構築
② NFTビジネスの発展に必要な施策
③ コンテンツホルダーの権利保護に必要な施策
④ 利用者保護に必要な施策
⑤ NFTビジネスを支えるBCエコシステムの健全な育成に必要な施策
⑥ 社会法益の保護に必要な施策
Web3を国家戦略にするために本気で考えている方々の課題と提言をまずは知っていきましょう。
3. Weekly Podcasts
今日までに放送したポッドキャストをまとめてご紹介します。気になるタイトルがあればぜひクリックして聞いてみてください。
#441では、ステーキングの仕組み、特にPoSでなぜステーキングすることがネットワークの貢献に繋がるのかに焦点を置き、解説しています。
#442では、ジュニアNISAを申し込んだことをきっかけに手続きのめんどくささとDeFiの圧倒的な効率性に対して感じた思いをお話ししました。将来、DeFiが一般的になるかわかりませんが、ビジネスの分野から利用が進んでいくのではないかと思っています。
4. 読者のコーナー
前回号は1万7千文字というもはやスパムメール級の長文でしたが、意外と反応がありました。みなさまありがとうございます!
そして、TwitterのNFTインフルエンサーのはるか先生がなんと、このニュースレターを購読してくださったとのTweet👀
毎週楽しみに読ませてもらっていますが「週刊 NFTニュース」はぼくも参考にさせていただいてます。このニュースレターを読むほどの勉強熱心な方には絶対おすすめです。ぜひ読んでみてください!
最後までお読みいただきありがとうございました。
4月になりました。新年度になり、新しい環境となった方も多いかも知れませんね。実はこのニュースレターのテーマカラーをブルーに変更しました。これはGoogleの検索リンクの色と全く一緒です。クリックできるところが青いと見やすいですよね。前までの薄緑はお気に入りなのですが、利便性を考えて変えてみました。(そもそも何でSubstackはリンクの色とテーマカラーがセットになってしまうのかに若干の不満あり)
ぼくは現在、クリプトとは全くことなる業界で働いていますが、どうしてもクリプトやNFTに関わる仕事をメインにしたいということで転職活動中です。とはいいつつも、ビジネスSNSすらまともに用意できていないわけですが…
ビジネスSNSって公開範囲を設定できるとはいえ、本名・顔出し・経歴など全部が丸出しとなり、匿名アカウントでやっているTwitterが身バレてしまうリスクがあって何となく踏み出せていないんですよね(言い訳)…。
よく考えればバレても、何も失うものなんてないのかな、と思うので試行錯誤していきたいと思います。
それでは、また。
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