前回のニュースレターでは、以下のような話をした。
ニュースレターの方向性を模索中。ブロックチェーン以外の文脈でテクノロジーとビジネスに関するニッチだが有益な情報を提供できる可能性を探している
汎用的なAGIが2027年までに登場することを予想したOpenAIの元エンジニアの記事を引用し、AIエージェントがエンタープライズ領域(営業シーンやセキュリティテスト)で革命的な変化を起こすことをリサーチ
これまでのSoftware-as-a-Service型のSaaSではなく、ソフトウェアによる労働力自体をサービスとして提供し成果報酬を得るモデルである「Service-as-a-Software」の波が来ることを紹介した
今回は、それらインフラとしての生成AIが発達する影響が個人開発や起業のパラダイムに変化をもたらしている事例である「マイクロSaaS」について取り上げる。
Service-as-a-Softwareの波が来るのは、恐らく1〜3年以上のタイムラグがあると思われる。なぜなら、AIエージェントの品質はすべてのサービス産業を飲み込むほど進化していないから。
その間のSaaS領域におけるAIの侵略は、マイクロSaaSというブームが牽引すると予想する。ただし、Micro SaaS以外にもVertical LLMなどのトレンドの台頭も可能性が見込める。興味のある人が多ければ、次回以降で取り上げます。
今後も読者の反応を見ながら、更新頻度や内容を調整したり模索する予定です🧑💻
マイクロSaaSブームがやってくる!
マイクロSaaSとは、非常にニッチだがペインのあるユーザーを対象とした、1人またはごくわずかなチームで、素早く開発してリリースされるニッチなSaaSアプリケーションのこと。
具体的には、ターゲットは100〜1,000人ほど、最大でも1万人のユーザーを想定し、月額課金でMRR(月間経常収益)1〜10万ドル程度を目指すビジネスモデルです。
特定の業界や職業をターゲットとして据えて、個人開発で一気にまとまった資金を得るようなスモールビジネスとも領域が近いジャンルです。
例えば以下のようなサービスがいま登場しています。
Postpone:複数のソーシャルメディア(Reddit、X、Threads、Instagramなど)への投稿スケジュール設定と管理を行うツール。MRRは約630万円。
Tomba:B2B向けのリード生成ツールで、メールアドレスの検索と検証を支援。アウトリーチ活動の効率化をサポートする。MRRは約60万円。
1Price:1Priceは、ダイナミックプライシング(需要に基づく価格調整)を可能にするプラットフォーム。特にEコマースで利用される。ユーザー数200人以上。価格設定に悩む小規模Eコマースオーナーをターゲットに、収益最大化のための価格調整を簡易化する。
PressPulse:AIを活用してジャーナリストと専門家をマッチングするプラットフォーム。PRエージェントやマーケティング担当者向けの機能を提供。ARR(年間経常収益)約1050万円。メディア露出を求める企業や専門家が簡単にジャーナリストと接触できるソリューションを提供。AIによる最適なマッチングで注目される。
読者の中にもこういったサービスは目にしたことがあるという人もいるのではないだろうか。実はこれらのSaaSの開発は、SaaSブームが起きたときからいくつも登場してきた。
今回のブームの新しい点は、個人が、AIなどの技術を使用し、簡単に、高速で、こういったニッチな市場をターゲットにしたSaaSを立ち上げる動きが出ているという点。
ChatGPTの登場以来、どのような起業モデルが生まれたのか。具体的なストーリを紹介する。
StealthGPTを創業したジョセフ・ガーマンのマイクロSaaS創業ストーリ
ジョセフ・ガーマン氏は、2022年にChatGPTの急速な普及を目の当たりにし、AI生成コンテンツの増加とそれに伴うAI検出ツールの需要を予想した。
一方で、GPTZeroのようなAI検出ツールが高精度でAI生成テキストを識別できることを知り、これを回避するツールの市場価値に注目する。
2023年2月、彼は「stealthgpt.ai」というドメインを150ドルで購入し、独学でコーディングを学びながら、AI生成テキストを人間が書いたように見せるツール「StealthGPT」を開発。1ヶ月後の3月に顧客を得ることができると確信を得て、サービスを正式ローンチした。
StealthGPTは、AI生成テキストを検出ツールから隠す機能を提供し、特に学生やプロフェッショナルに支持された。
これはおそらく、大学のレポートや会社の資料作成で、ChatGPTによる適当な品質のレポートを提出することに抵抗感がある人たち。彼らはAIでレポーティングを効率化はしたいが、そのレポートの品質を「AIぽい」というレッテルを貼られるコンプレックスを抱いていたはず。StealthGPTでは、様々なユースケースで人間ぽい文章を数クリックで生成してくれる。
サービス開始から15か月でMRR19万ドル(約2,800万円)を達成し、約8,500人のアクティブユーザーを抱えるまでに成長するまでに至った。
ジョセフはここまで華麗に成功してきたようにみえるが、実は泥臭く開発をしていた。
ジョセフは最初にVercel(フロントエンドを簡単に作れるアプリ)の無料版でビジネスを育て、開発資金を調達するために別のビジネスをやりつつ生計を立てていた。夜にプロトタイプのの開発に取り組んで、少しの収益を得たら今度は広告に投資。これをコツコツ続けて、赤字を抜けたのは6ヶ月以上かかった。
彼のモチベには、暗号資産関連の事業で40万ドルの負債があったことも影響していたそう。この経験を糧にして、AIを利用したビジネスモデルを作り、成功を収めている。
ちなみに、プライシングは以下のとおりです。
マイクロSaaSは自分でも作れる?どうやって?
マイクロSaaSは、開発知識がなくてもとりあえずのMVPで出してみてそのプロダクトの反応をみて検証できるまでがはやい。
しかし、最初はどのようにすすめたらいいだろうか、と疑問も多い。YouTubeでこのテーマに関して興味深いインサイトを提供している動画あったので共有します。
月収10万ドルを達成できるSaaSアイデアを見つけるための5つの方法
Brett Malinowski という人物が、YouTubeチャンネル「Brett Malinowski」で、月収10万ドルを達成できるSaaSのアイデアを見つける方法を解説する動画を公開している。彼は過去3年で12以上のSaaSアプリを開発した経験があるプロ。
自分のアイデアで開発したもの、クライアントのために開発したもの、YouTuberのために開発したものなど、様々な開発経験を持っている。開発したアプリの中には大成功を収めたものもあれば、失敗したものもあるが、その経験を活かしてコンテンツクリエイターやオンラインサロンなどで知見を共有しているという。
彼がいうに、月収10万ドルを達成できるSaaSアイデアを見つけるための5つの方法は以下の通り。
自分が抱えている問題を解決する
既存のソフトウェアの問題点に着目する
acuire.comで既存SaaSを参考にする
RedditやQuaraで「How to」の質問を調べる
Creator Led SaaSを活用する
順にまとめると、
自分が抱えている問題を解決する
自分が専門分野や自分が得意や好きで、人よりも背景知識を少しでも多く持っている領域を見つける。その領域で自分が一番に直面している問題を解決するアイデアは成功の可能性が高いという。
これは、現実に自分が問題に直面しているため、空想の課題ではないということが大きい。また、背景知識もあるので必要な機能や改善点も具体的なアイデアを持つことができる。
専門分野であれば、その領域のネットワークを使える可能性がある。このネットワークを販売経路にしていくこともできる。
既存のソフトウェアの問題点に着目する
既に市場で実績のあるアプリをみつける。これの少し異なる確度からアプローチをして、特定の市場セグメントの一部を獲得してしまう。100万人のユーザーベースがいる王道なアプリケーションがすでにあるとする。
このアプリで抱えている課題を1万人だけに向けた機能に特化したアプリを作る。あとは王道アプリと機能は同じか最低限あればよい。
既にお金を払う顧客がいる領域から、その少しの分け前をもらうイメージ。
acquire.comで既存SaaSを参考にする
acquire.comとは、実際にローンチされているSaaSのMRRなどをソートして見ることができる。収益データから、そのアイデアが実際にPMF(プロダクト・マーケット・フィット)していることが客観的に判断できる。
様々な業界で成功しているSaaSアイデアをニッチバージョンにして、自分のケイパビリティと相談しながらアイデアをエッセンスとして追加する。
ローンチしても利用されないという「ハズレ」をできるだけ引かないようにしていく。
RedditやQuaraで「How to」の質問を調べる
Quaraは、プロフェッショナルなユーザーが応えるYahoo知恵袋的なサイト。
世の中のユーザーが自分では解決できず、人に解決を求めていることが投稿されていることになる。
この回答をもとめるコメントには、適切なSaaSが存在しないか、その機能が不足していることが予測できる。
これらを機会にして、リードの獲得や深堀りをしていく。リサーチをゲーム感覚でできると良いとも動画では説明されている。
Creator Led SaaSを活用する
上記までがセオリー。Creator led SaaSとは、多くのフォロワーを持つKOL(いわゆるインフルエンサー)と提携し、”彼らの”アイデアをSaaSとして開発する裏技。
すでにKOLはオーディエンスという見込み客を抱えている。自分は、開発力や設計、ローンチ方法を知らないKOLに対して受託開発を営業することになる。
これは初期には難易度が高いが、潜在的な見込み顧客が具体的なだけに成功すれば大きな収益をレベニューシェアできる可能性がある。
動画の教訓をまとめると、
十分な市場規模がある(最低1万人)
ユーザーが定期的に使用する必要のある問題を解決する
顧客がどこに居るのか、どのようにアテンションをえるか、優良顧客に変えるのかを自分が理解している
という点を前提として、上記のようなアプローチを行うことをおすすめしている。
いくつもの開発経験があるだけに、とても実践的だが本質的なアプローチだと思ったので紹介しました。
マイクロSaaSブームが日本にやってくるのは2025年あたりと予想
SaaS自体の市場規模は、世界では2023年に約2735億ドルで、2024年には3175億ドルと予測されているようです。生成AIを活用したトレンドが来ているため、この流れにどのような影響が起きるのか未知だが、マイクロSaaS市場にはこの巨大な市場規模を狙っていく動機が生まれていくと思われる。
スタートアップではなく、なぜ個人開発のようなマイクロSaaSなのか?という疑問については個人の価値観によるところも大きいと思う。大きな成功を短期間で得るか、小さいが生活には十分な経済的自由を手に入れることができる成功を長期的に得るか、どちらを好むかの違いかも知れない。
米国を中心にいくつものニッチなマイクロSaaSがでてきている背景は、後者のような価値観を重視し、かつ低リスクでAIを活用して個人でも小さく挑戦できる環境が整ってきたことも背景にあるはず。
日本では、昨今、「103万円の壁」など、手取りを増やすというブームが起きています。これが世論の的になるのも、政治的な背景だけではなく、人々の根源的な欲求に「手取りを増やしたい」や「生活を少しでも余裕のあるものにしたい」、「できるだけローリスクでも十分納得できるお金を得たい」などの感情があるからだと思う。
生成AIによって、この手段が高速で効率化されてきたいま、月間数百万円の資金を手に入れられる可能性を見込んで、開発経験のないプレイヤーも参戦できるようになった。恐らく既に個人開発をやってきた人はもちろん大きな生産性を得ているだろうと思う。
この波は、米国から必ず日本にやってくると予想する。
最後まで読んでくれてありがとうございました。 🙇♂️
購読よろしくお願いいたします。